ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

イマジネーションという意味において、ゲームも音楽もまだまだ新たな可能性を発信できる

ー実際、今生きている世界に対しての問題意識と改善するための行動は、想像から生まれるものですよね。気候変動に対しての危機意識を訴えて立ち上がるユース世代が増えたことも、人種間の争いことも、従来のジェンダー観がフラットなものに立ち返ろうとしている動きも、過去を見直して未来を想像することから始まったもので。そのイマジネーションが人間の希望そのものだと思うし、音楽もそこに訴えることのできる芸術だと思うんですよ。

オリヴァー:まさにそうだよね。イマジネーションという意味において、ゲームも音楽もまだまだ新たな可能性を発信できるものだと思っている。『Death Stranding』も、人との関わり合いの中で物語が進んでいくものだし、小島監督のように、想像性の中にリアルなメッセージを込められる人だからこそ作れた作品だと思う。今はVRによって、リアル以上にリアルを直視させられる芸術も進化しているから、芸術とファンタジーの境界線も、ゲームと映画という境界線も、どんどんなくなってきたと思うんだ。そこで大事なのは、確かに僕らは自分の体で体験して、実感を得られるということで。

ーあくまで身体性に伴う体験や実感が想像力を生んでいくと。

オリヴァー:そう。ファンタジーだとしても、ただ見るだけじゃない、実際に体験していくことから自分の想像性は育まれる。音楽というエンターテイメントが持っている可能性も、その圧倒的な体験ができる点なんだよね。イマジネーションを働かせて、そして人それぞれの身体的な高揚も生んでいくもの。それを僕らも追求していくべきだと思っているよ。それに今は、何をするにしても同時にiPhoneを触るのが普通になってきているじゃない? つまり何かひとつの体験をするだけでは脳が満足しなくなってきてると思うんだよね。そういう意味でも、イマジネーションを生むための体験をいくつも同時に生んでいくことが大事になってくると思ってるんだ。

ー『amo』がそうだったように、個々の想像力とエモーションを叫べる歌・音楽こそリアルだという視点が、個を証明するものとしてのラップミュージックを消化した音楽に表れていたと思うんです。そして今の時代は特に「みんな」という目に見えないものに向けてではなく、今ここに生きていると個を証明できる、あくまでひとりの想いを吐露している音楽がポップミュージックになっていく向きにあるとも思うんです。

オリヴァー:そうだね。ファンタジーと現実との境目がなくなってきていると話したけど、たとえばこの『Death Stranding』も、ファンタジーでただ楽しいだけの作品ではない。レビューを見ても、そういう感想が多いよね。映画で言えば、単館上映の作品みたいに強烈なメッセージと個の想いに溢れていて、クリスマスに家族全員で観られる映画とは全然違う。だけど人を奮い立たせるエキサイティングなものっていうのは、いつでも個々の想いとメッセージだと思っているんだ。僕自身も、『Sempiternal』以降は特に、自分の心の中にある痛みや苦しみを歌にすることで、それがセラピーになると気づいてきたんだ。クールなもの、その時代に強いメッセージを放つものっていうのは、常にそういうものだと思うんだよね。そこに生きる人の独自性、ユニークさが輝くべき時代においては、特にね。

ジョーダン:そうだ。僕も実際に『Death Stranding』を数時間プレイしてみたんだけど、まだ状況が動く前までしかやれていないんだよね(笑)。

ーああ、そうなんだ(笑)。

ジョーダン:5時間くらいやっても、まだまだ広い世界の一部をウロつくだけで終わっちゃってね(笑)。それで、よりにもよってトイレに行って「大」をしている時に「Ludens」がかかってきて笑ってしまったんだけど。

ーはははははは。先ほどは、その場所、その人にしかない独自性という話もありましたけど、世界規模の活動になっていく中で、日本という場所にしかない面白さとはどういうものだと思われてます? それこそ今回は、日本特有の音楽によってメタルの様式美を刷新したBABYMETALとの共演のために来日されたわけですけど。

ジョーダン:日本は世界一の場所だと思っているよ、本当に。クールなものを探していくと、日本に辿り着くことが多いしさ。

リー:そうだね。ここに来るたびに感動がある。世界中を回っているけど、伝統と未来がこんなに融合している文化は他に見当たらないよ。ここにしかない文化が豊かだと思う。

ー特に音楽の変容の仕方、音楽を取り巻くビジネスの仕組みに関して、日本では「ガラパゴス化」という言葉がよく使われるんですね。つまり、世界と断絶された歪な文化のまま抜本的なアップデートがされていない。でも逆に見れば、ここにしかない独自性だという言い方もできるかもしれないわけで。その点はどう見えていますか。

オリヴァー:クレイジーなファッション、アニメ、それこそゲームにしても漫画にしても、ユニークでイマジネーションを刺激してくれるカルチャーを追い求めていくと日本に辿り着くんだよね。いろんなものをミックスする自由さも存在していると思う。それをもっと面白みとして自覚すべきだよね。


Photo by Kana Tarumi

ーたとえば今挙げていただいた日本の漫画やアニメで言うと、少年少女の成長と葛藤が物語になっていくものが多いですよね。それとも通ずる物語性がブリング・ミーのバンドストーリーにもあると思うし、そのストーリーを描けるバンド自体が今は少なくなっていますよね。その辺りで自覚的なものはありますか。

オリヴァー:ああ、確かにそうかもしれないね。そういう部分でも日本のカルチャーは僕らの新しい刺激になるし、ヒントになるんだ。言ってくれたように社会やカルチャーとして閉鎖的になっていくのだとしたらもったいないと思うけど、たとえば世界の都市を見てみても――ニューヨークにしても、パリにしても、いろんな映像である程度のイメージができているわけだよね。実際、そこに行ってみても想像通りの範疇に収まることが多い。だけど日本は、毎回想像以上の驚きがあるんだ。街のネオンにしても、音楽にしても、ゲームにしても、クレイジーなファッションにしても、とても刺激的だよ。まるでディズニーランドに来た感覚になれる。そういうものを僕らも吸収して、変化していければと思ってる。

Translated by Yuriko Banno

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