ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

『Death Stranding』で描かれているものとBMTHのメッセージの共通点

ーそれに、タフな状況でもやりたいと思うくらい小島さんが作り上げるものへのリスペクトがあったし、世界に向けて自分たちの音楽を改めて届ける意志があったということですよね。実際の『Death Stranding』で描かれているのも、人間個々の繋がりをテーマにしつつ、それが精神的にも物理的にも絶たれたリアルな世界で。こうしたディストピアの中で人間がどう生きるかを問う世界観と、自分たちのメッセージがリンクするポイントもあったんですか。

オリヴァー・サイクス(Vo):確かに言ってくれた通りで、あのゲームの目指しているところが、僕らの音楽のテーマにしていたところと重なっていると思えたんだ。ゲームのトレーラーを見て概要を調べていった時に、まさに人間の繋がりや、今の世界自体をテーマにしているゲームだとよくわかったんだよね。環境が破壊されて、人間も分断されて、世紀末以降の世界――このゲームが示唆している通り、まさにディストピアになっている今の世界の状況に対して、自分の重たい感情(注釈:オリヴァーが離婚のトラウマを乗り越えていった過程が『amo』の歌には多く込められている)を出し尽くした後に果たして何が歌えるんだろうとよく考えた。そこで、やっぱり僕自身も世界の現状に悲しい気持ちを持っていることに気づいて。これまで僕は自分の内面を歌詞にしたり、まるでセラピーのように自分の痛みを歌にしたりしてきた。気候変動、人種間の争い……それ以外にも今はたくさん問題があって、そういう世界の痛ましい状況が自分にどういう影響を与えてきたのかという観点で歌うことがほとんどだったんだけど、この痛みを綴った歌が世界にどんな影響を与えるのかという観点で歌ったことはなかったんだよね。なおかつ、いつか自分自身の感じる世界の現状をメッセージにしてみたいと思っていた。それを、今回のゲームの世界観を通してようやく形にできた気がしたんだ。


オリヴァー・サイクス(Photo by Kana Tarumi)

ー実際、時代の新たなリーダーが必要であること、人間が人間であるための新たな文化構築の必要性がこの歌の主題になっていますよね。ハイパーな要素と生々しい叫び、ブレイクダウンが共存しているアレンジも、今おっしゃった話と世界の分岐点を明瞭に表していると感じました。

オリヴァー:このゲームもまさにそうだけど、何もない荒野を主人公が歩んでいくわけだよね。それを見て、何もかもが崩壊した世界であっても、人間がそこに立っている限り、必ず希望は生まれていくと感じたんだ。人間が動物とどう違うかって、それは「想像を形にできる」ことだよね。遡ってみてもよくわかるよね、人間は何もないところから火を発明して、目に見える世界を写真に残す方法を生み出した。想像から生まれるものが僕らの文化となって、人と人を繋いできたんだ。日々バッドニュースばかりが聞こえてくるし、社会の仕組みとしても、誰もが自分の痛みや意見を吐き出せずに心を痛めるようになっている。たとえば今は悪質なマスキュリニティについて言及されることも多くなったけど、従来の「男性らしさ」の刷り込みが残っているせいで今どうしたらいいのかわからなくなっている若い男性もたくさんいるわけだよね。僕自身も自分の痛みをどう消化したらいいのかがわからなかったし、イギリスのシェフィールドという片田舎で育って誰にも心の内を明かせない環境だったからこそ、今の若者が社会の抑圧の中で苦しんでいることもわかるんだ。そういう苦しさや圧迫感は至るところにあるし、とかく悪いニュースに耳は引っ張られる。だけど、やっぱり人間は想像力によって次にどうしたらいいのかを表現してきた生き物なんだよ。それに、見渡してみればグッドニュースだってたくさんあるじゃないか。たとえば16歳の大学生がゴミを再生させる生物有機体を作ったり、マンゴーのピールから製品のパッケージを作ったり、若い世代が世界に優しいものを開発している事実もある。だから、痛ましい現実や絶望、政治的な問題や人間の醜悪を突き付ける以上に、希望を再生していくための行動と想像力をメッセージにしたいと思ったんだ。痛みの中でも前向きで、人間としての希望を感じられる歌――それはサウンドとしても歌詞としても表現できたと思う。とにかく自分自身が行動を起こして、世界を変えていかなくちゃいけない。そのヒントは、今回の『Death Stranding』から得られたものだね。

Translated by Yuriko Banno

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