「尊敬と崇拝は違う」FINAL SPANK HAPPYと語る男女のパートナーシップ

「僕はそこそこマッチョで、女性のことを尊敬できないことに苦しんでいた」

─切ない歌詞を歌いつつ、湿った感じにならないバランスはどう作ってるんですか?

菊地:先程話したジェンダーの扱いと、まあ、彼ら(アバターを指差す)のキャラクターですかね。東京藝術大学作曲科出身の小田朋美とジャズミュージシャンの菊地成孔、なんて息苦しいだけでしょ(笑)。まあボス君がOD見つけてきてくれて本当に良かったです(笑)。

─普段、クールな小田朋美さんとひょうきんなODとのギャップはそこから……。

BOSS:いやいや。え? え? あれ? こうやって目の前に4人並んでても小田さんがODだと思ってるんですか?まさかね?(笑)。

OD:鏡使ってトリックとかしてないじゃないスカ〜(笑)。江戸川乱歩みたい(笑)。

菊地:僕も来て、お忙しい小田さんにわざわざ来て頂いても、混同しますよね(笑)。まあ、僕たちにも責任はある。相貌が似てるんだから(笑)。

OD:BOSSと菊地サンは全然似てないじゃないスか(笑)。

菊地:双子は必ず言うよな。「自分たちは全然似てない」って(笑)。

─すみません。アバターさんとのインタビューって難しいですね。

BOSS:いえいえ(笑)。それはさておき、もちろん、私も菊地君もODを操縦するつもりはありませんし、着せ替え人形にするつもりもありません。だって、人間を非人間化してこちらの希望するキャラクターを押し付けるのは隷属ですからね。男が女を自由にできる、自分の好きなようにしたてあげるプロデュースって、端的に男根主義じゃないですか。

─では、どうやって……ある種仮面のようなものができていったのでしょうか?

菊地:まあ、小田朋美さんは彼女が学生の時から知っているわけですし、付き合いが長いですから。この長い付き合いの中で潜在的に持っている欲望が見えたから、例えば『シャーマン狩り』のジェケットで、裸になってください。とか提案できたんですよね。

自分が自分だけで作り上げた自己像と言うのは必ず歪んでるから苦しくなるんですよ、きっと。なのでそこに潜在的に抱いていたペルソナを与えると生き生きする。ユングのようですけど、メガネをかけるとか話し方を変えるとか髪を切るとか、簡単なところで人は変わって、本来持っている力が引き出せる。これがプロデュース業の本質だと思っていますし、男性側ができるフェミニズムの実践の一つだと思っています。料理人は、鯛の死体を好きなように弄んでいるんじゃありません。鯛の中に潜んでいる本来の味を引き出す訳です。料理の鉄人のように(笑)。それは食材に対する敬意ですね。対話とも言えます。

小田:実は私にとって懐かしいキャラクターなんですよ、ODは。子供の頃は、兄2人がいる家族の中でひょうきんなことをして笑わせるのが好きだった。でも、成長していく中で「女の人ってピエロになりきれないのでは」と思ってしまって。なんでだろう。

……本当はずっとピエロになりたかった。ピエロに憧れすぎて「たのしいピエロ組曲」っていう曲を作ってましたからね。幼稚園くらいの頃ですけど。その組曲の中には「かなしいピエロ」って曲もあったりして(笑)。

菊地:ピエロが悲しい。これまた古典的な……(笑)。

小田:ODを見ていると、たまに羨ましくなります。別の仕事で、菊地さんがなさる提案の中で「えっ?」とか「無理なんじゃないですか」って思うことは、いつもあります。でもやってみると必ず上手くいって、自分で自分を縛っていたと感じることが多かった。解放感があった。ODがノーストレスでリップシンクのダンスをしたり、ステージで私には着れないようなウェアを着たりして、きゃっきゃ言って楽しんでるのを見ると、自分の子供の頃を見てるような気分ですね。これって退行ですかね?

菊地:まあ、一種のそれですかね。








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─異物とか異論をとりいれて自己解放するのは、人としての成熟っぽいですね。

菊地:発達っていうのかな。退行の反対ですね。

─2期を鬱々しい退行としたら、FINAL SPANK HAPPYは発達。

菊地:発達は退行よりもビターです。ビタースイートぐらいが一番良い。女も男もひれ伏すクールな才媛に、実はコミカルなピエロ欲求があったことに気が付いたのは僕だけなんじゃないかなぁ。小田さんは普通にしているとシャーマニックになるんですよね。

─女の人を巫女的な感じで崇める形式ってありますよね。

BOSS:そうそう。女性崇拝はプリミティブだから、すごく簡単です。簡単が悪いわけじゃないけど、とにかく簡単です。菊地君はUAさんや宇多田ヒカルさんとご一緒した縁で、経験値として持ってたんじゃないでしょうか。だからすべての民が一人の巫女にひれ伏す構図は飽き飽きしていて、FINAL SPANK HAPPYのプロトタイプをイメージしたんだと思います。女性を崇拝しながら嫌っているミソジニーこそ、フェミニズムの反対の極みですしね。

(ODが寝始める)

菊地:自分がプロデュースするなら違うことやりたい。小田さんをシャーマニックな偶像にして喜ぶなんて、パソコンを起動させるようなもんです。そんな仕事をして稼いで死ぬなんてろくな人生ではない。『シャーマン狩り』っていうのは、小田さんが小田さんを狩るという意味です。

僕はそこそこマッチョで、女性のことを本当に尊敬できないことになかなか苦しんでいた。尊敬したいんですよ。でも、本当にピュアに尊敬することって、まぁ僕は昭和のミドルスクーラーでもあるから難しかった。だって、もうすぐ60歳ですからね。自分の内なる保守性と見つめ合わないと(笑)。

─女性として尊敬したのは小田朋美さんが初めてくらいですか?

菊地:音楽家としてはギリギリ初めてぐらいじゃないですか?『cure jazz』(2006年)で組んだUAのことは崇拝していましたからね。巫女としての力がすごすぎて尊敬している暇もなく圧倒されていた。「UA様が歌ったら雷が落ちる!」みたいな(笑)。

─崇拝と尊敬は違うと。

BOSS:全く違います。小田さんなんて菊地君の23歳も年下。娘の年齢を尊敬するというのは、娘がオリンピックにでも出ないと(笑)。

─負荷が大きい。

BOSS:その点、ODは楽です。笑ってバカに出来るような奴だからこそ、すごい力を出した時に、バリアフリーに敬意を持てます。「なんだそれ! お前すげえなあ!」みたいな。

菊地:小田さんに関しては、結局実力なんですよね。美しいとかスタイル良いとかいう美点は、それだけでは尊敬の念を産むには、少なくとも僕にとっては難しい。むしろ、マッチョに引っ張られるファクターです。小田さんが書いた弦楽のアレンジを聴いて本当にすごいと思った。調性の音楽で良いと思うことは滅多にない。特に邦人が書いたものでは。

─菊地さんと小田さんは、映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』の劇伴も担当していますよね。クレジットの並びが「小田朋美・菊地成孔」の順番だったのもそこに帰着するんですか?

菊地:あれは小田さんへ先にオファーが来たんですよ。それだけです。

小田:最初は菊地さんの名前を差し置いて大丈夫かなという気持ちもあったんですが、私にオファーが来たので、チームとしてのルールに従ってそうしました。

菊地:『東京喰種 S』の前に『素敵なダイナマイトスキャンダル』を2人名義で担当したんですよ。それは菊地にオファーが来た。オファーが来た方の名前を前にしようってなりました。SPANK HAPPYと同様、一概にどっちが作ったって言い切れない楽曲なので。

─ピュアに対等なんですね。

小田:お互いの敬意がベースに関係性が成り立っています。女性もちゃんと男性のことを尊敬しなきゃいけない。社会構造とか抑圧とか個人的経験とかいろいろあって、女性も難しくなっちゃっている部分もあると思うんですよ。相手がマッチョだと思ってしまうと、純粋に尊敬できなくなっちゃう。でも、お互いに心から尊敬していることが前提にあれば、反発しても一緒に進んでいける。

菊地:仮に小田さんが僕を尊敬していると仮定したとして、ファクトでいうとフックアップしたプロデューサーだし、バンドに誘ったり、そういう自動的に決まっているような尊敬ってあるじゃないですか。そんな尊敬はほぼ意味ない。

小田:その尊敬だけだったら菊地さんに反発できないですよね。ストライキとか(笑)

─女性をアウトプットで尊敬して対等になる。

BOSS:そうそう。フレッシュで強い尊敬。それまでの歴史や関係性から全く切れた一対一の付き合いの中でできた敬意の結晶みたいなものがFINAL SPANK HAPPYなんですよ。まあ、OD、寝ちゃったままですけどね(笑)。先に写真撮っておいて良かったです(笑)。

菊地:まあ、動物はよく寝るよな(笑)。


Photo by Kana Tarumi




FINAL SPANK HAPPY

『mint exorcist』
発売中
※各種ストリーミングサービスでは、CD収録全12曲のうち「アンニュイエレクトリーク」「共食い」を除いた10曲を配信。

FINAL SPANK HAPPY mint exorcist TOUR
2019年12月22日(日)福岡 Kieth Flack
2019年12月26日(木)東京 WWW X

料金:¥4500+入場時ドリンク代
※18歳未満入場不可
※東京公演のみ 未就学児入場不可

FINAL SPANK HAPPY特設ページ:
https://www.bureaukikuchishop.net/spank-happy

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