「尊敬と崇拝は違う」FINAL SPANK HAPPYと語る男女のパートナーシップ

「男が作曲で女がポエム…そんなの旧態依然じゃないですか」

─でも、菊地さんと小田さん、BOSSさんとODさんは年齢がかなり離れていますよね?

BOSS:はい、私とODは、菊地君と小田さんの実年齢と同じで、20歳以上違うんですよ。まあ、こいつ(OD)には年齢という感覚はありませんが、「人間に換算すると」というやつですね(笑)。一般論で言うと、年齢差が開けば開くほど対等な状態に持っていくには負荷がかかります。経験値とか社会的立場とか、それに伴う忖度が発生しますから。そういうことにはリベラルである方な、菊地君と小田さんの間にさえ、微弱ながらそれはあります。でも、私とODににはその負荷がないんですよね。

─なぜでしょう?

BOSS:FINAL SPANK HAPPYはまず前提としてジェンダーが転倒してるんです。私はDTMの技術が全くありません。菊地君と同じです。ピアノを少々演奏はできる程度です。一方、小田さんもODもMIDIが使えるし、SNSの管理もできるし、なんならHTMLだって組める。

─HTML!

小田:中学生くらいの時に、PCで自分の部屋みたいなホームページを作るのにハマっていて。凝ったデザインにするには自分でHTML組んだらいけるんじゃないかなと。僭越ながらFINAL SPANK HAPPY『mint exorcist』の販売フォームも作らせて頂きました。

OD:自分はミトモさん(ODは小田をこう呼ぶ)の家にお世話になっている間に、DTMみんな覚えちゃったじゃないスか! だからデモは自分が作るデス! あと、菊地さんは免許を持っていないので、BOSSとふたりで移動するときは自分が運転するじゃないスか(笑)。

菊地:アバターだからな(笑)。


BOSS:その一方で僕はファッションやダンスが好きなので、そちらを担当しています。旧態依然たるジェンダー観というのは「男子が機械をいじりをし、女子がファッションに詳しい」というものです。FINAL SPANK HAPPYは基盤にこの転倒があります。転倒も平等への入り口ですからね。身長だってほとんど変わらない。こいつ(OD)が高いヒールを履いたら追い越されますからね。

OD:菊地さんだったら許されないことじゃないスか(笑)。

BOSS:まずジェンダーが「転倒」していて、次に「対等」になる。楽曲の制作面では完全に我々の合作です。作曲は男でポエムは女の子みたいな旧態依然のジェンダー分業はしませんし、逆張りもしません。

OD:明確にこの楽曲は自分が作ったと分けられるものはないデスね。割合は6:4とか7:3とか違いはあるデスが、どっちか一人が作りきるってことは一曲もしてないじゃないスか。

BOSS:でも、ユニセックスがしたい訳じゃないんで、合作した楽曲はフェミニンに仕上げて、基本的なジェンダーに戻しています。


Photo by Kana Tarumi

─念のため確認ですけど、菊地さんとBOSSさん、小田さんとODさんは別人なんですよね?

全員:もちろん。

─(笑)。今回のアルバムは切ない恋愛ソングが多いですね。

BOSS:FINAL SPANK HAPPYは、ジェンダーの転倒、ジェンダーレス、またジェンダーに回帰っていうジェンダーの3層構造になってるわけですね。ですので、ゆくゆくはステージ上でODにスカートとかMETガラみたいなロングドレスも履かせようと思ってます。

─なぜですか?

BOSS:いやあ、だって(笑)、これでODがボーイッシュでマスキュリンな格好をしていたら単なるジェンダーレスですから。それって男も女もアニエスベーとコンバースを履いてた90年代リバイバルですよ(笑)。せっかくこの世にはジェンダーというものがあるんです。それを使ってあらゆるリージョンを見せたいですね。

─アートワークでは2人ともシャツでマニッシュな感じですしね。逆にBOSSさんがフリルのシャツを着る日が来ることもあるかもしれない。

BOSS:ですね。まあ私自身、少し前までレディースを普通に着てましたからね。今でこそメンズのSサイズを着てますが、レディースの方がシルエットが綺麗だったりするんですよ。今やファッション自体がそうなってきてますよね。

─BOSSさんとODさんは、合作する上で衝突は起きないのでしょうか?

BOSS:お互いが納得する良い曲ができているので最終的には成功している訳ですが、制作中はずっと喧嘩してます(笑)。

OD:路上でつかみ合いになった事もあるじゃないスか〜(笑)。

BOSS:  まあ、ジョン・レノンとポール・マッカートニーもやってたと思いますよ(笑)。一方で「やっぱ凄いなあお前」「ボスもヤバいじゃないスか〜」という時間がなければやっていけません(笑)。

OD:衝突から始まっている……共感から始まるよりも「えっ? そこくるんですか?」という違和感……? 異物感から始まることが多いです。



菊地:えーと菊地ですが、それは僕と小田さんも一緒です(笑)。小田さんはご家族が男社会ということもあってかどうか、フロイトでいう、典型的なファロス願望があって、年長者の男性であれ、全く喧嘩を恐れない。僕、娘ぐらいの年齢の女性からこんなにボロカスに言い返されたのは初めてですよ。何か口答えしたら100倍で返してくる。でも、父親みたいには振る舞えないし、喧嘩になるのが嫌だから結局機嫌とっちゃってる。

小田:恐れないというか態度に出ちゃう……。「はい。わかりました」と言っても、嫌悪のニュアンスが……(笑)MIDIに打ち込むとか、具体的なオペレーションするのは私なので、嫌と思うところは手が止まっちゃう。

菊地:ストライキみたいなものですよね(笑)。

小田:拒否反応が隠せないし、思った通りにならない時の感情が、すぐには戻せないんですよね。でも、そうすると制作自体が進まないから……「じゃあどうすれば納得する?」と議論が始まって、最終的には何とか落ち着くからやっと形になる感じです。

OD:自分も、今では自分にとって違和感のあるBOSSの提案も、最終的には良くなるとわかってきたのでしぶしぶ納得、ということも増えましたデス! でも、最初の頃はスタジオ飛び出したりしてたじゃないスか〜(笑)。

BOSS:今も全然反発されますよ!(笑)。ただ、嫌だと思ったときのパワーは大事なので。僕も僕で忖度や妥協はしないし。ただ、さっき言ったように「この小娘が!」とも全く思いません。こいつを尊敬しているので。

菊地:お互いにベーシックが違うので喧嘩するのは当然なんです。僕はジャズ。しかもジャズの中でもコンサバではないエッジィなものをやってきた。要するに「調性」から出たい人間。一方、小田さんは古典寄りのクラシック。「調性」を重んじるタイプ。当初、小田さんのプロデュースを断ろうと思っていたのもここでした。

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