マーティン・スコセッシの音楽:数々の名作を彩るサウンドトラック徹底ガイド

Warner Bros/Courtesy Everett Collection

ドノヴァンの「アトランティス」からウォーレン・ジヴォンまで、オスカー受賞監督の世界観を支える名曲の数々を紹介。

マーティン・スコセッシが手がけた『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』の冒頭で、レオナルド・ディカプリオが演じる若きブローカーは職場でパーティーを開く。ストリッパー、丸刈りにした秘書、マーチングバンド等が場を盛り上げ、スーツ姿の社員たちは狂喜乱舞する。一見安っぽいコメディ映画のワンシーンだが、エルモア・ジェイムスの「ダスト・マイ・ブルーム」が流れた瞬間、その印象は一変する。どんちゃん騒ぎは突如として、まるで悪夢のような不穏さを帯び始める。虚無的快楽主義とジェイムスの忍び寄るようなギターを組み合わせるという唯一無二のセンス、それはまさに脱帽ものだ。

ポップやロックの楽曲によってシーンを劇的にドラマチックにするという手法は、言わずと知れたスコセッシの十八番だ。バーナード・ハーマンによるスコアやバッハのソナタから、ヴィンテージのR&Bやドゥーワップ、ブルース、そしてブリティッシュ・インベイジョンを象徴する曲群(「昔ストリートで耳にした音楽」と彼は語っている)まで、彼の映画を彩る音楽は極めて多様だ。ドノヴァンの「アトランティス」やウォーレン・ジヴォンまで、ロック界の大御所たちとも縁の深いスコセッシの世界観を支える名曲の数々を、A to Zのカウントダウン形式で紹介する。

A: ドノヴァン「アトランティス」(『グッドフェローズ』より)

ドノヴァンが海底のユートピアについて歌ったこのヒッピー的な曲と、バーで繰り広げられる激しい暴力シーンはミスマッチのように思える。しかしスコセッシは、このみずがめ座のテーマソングによって、ビリー・バッツの怒声(「とっとと失せろ!」)に身も凍るような皮肉さを含ませてみせた。彼の目論みは見事に功を奏したといえるだろう。男が怒り狂う場面のバックで、60年代のフォークシンガーが海底での暮らしについて歌うという奇妙な組み合わせには、タランティーノも衝撃を受けたに違いない。

B: ザ・ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」(『ミーン・ストリート』より)

音楽がインパクトを増大させるシーンは数あれど、これは最も有名な例のひとつだろう。当時注目の若手俳優だったハーヴェイ・カイテルが、悪夢から目覚めた後に再び横たわるシーンで、ロネッツによる1963年の大ヒット曲のドラムが鳴り響いた瞬間、スコセッシの名は業界中に轟いた。劇中でポップミュージックが効果的に用いられるケースは過去にも存在したが、大衆の暮らしの困難さを大衆音楽で描くという発想は極めてユニークだった。曲のリズムに合わせたシーケンスも斬新であり、ポップスでパーソナルかつドラマチックな効果を生み出すというその手法によって、彼は映画監督として独自の存在感を確立した。

Translated by Masaaki Yoshida

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