獣神サンダー・ライガーの幸福な「最終章」と、その先に広がる「新章」の夢

獣神サンダー・ライガー(Photo by Shuya Nakano)

プロレスファンならずともその名と容姿が知れ渡っている現役プロレスラーの1人である獣神サンダー・ライガー。1989年の「誕生」以来、常に第一線で闘い続けているだけでなく、ハードな格闘戦からファンを楽しませるような試合まで、現在のブームの礎ともいえるプロレスの“多様性”と“楽しさ”を追求し続けているレスラーだ。

そんなライガーが、2020年1月4日&5日の2日間にわたり開催される新日本プロレス東京ドーム大会で、31年のレスラー人生に別れを告げる。自ら「世界一のプロレスファン」を公言するほどプロレスを愛し続けた男が、現役を退く決意をした理由はどこにあったのか。引退試合を目前に控えたライガーが抱くプロレスへの想い、そして引退後のビジョンについて聞いた。

五体満足なれど、敵は徐々に芽生えていく「しんどさ」だった

─先ほど、カバー写真の撮影でビルの屋上へ移動する際に、軽快に階段を昇り降りするライガーさんの姿を見て、大げさに言えば衝撃を受けました。これまで長年のキャリアを積んだプロレスラーにインタビューする機会が何度かあったんですが、多くの選手がリング外の日常では歩行に何かしらの困難を抱えていたものですから。

そうですねぇ。レスラーの持病っていわれるくらい、皆さん膝とか足首、腰へのダメージが蓄積しているのが当たり前ですからね。それが一歩、花道に踏み出してしまえば、ダメージをまったく感じさせない動きができちゃう。僕から見ても、ホントにスゲェなって思いますよ。


Photo by Shuya Nakano

─しかしライガーさんの場合は、変な言い方ですがリング上での動きとまったく変わらなかったんですよね。キャリア30年超の選手にもかかわらず。

健康診断を年に1回してるんですけど、先生にも毎回ビックリされますよね(笑)。もちろん、小さなケガや故障は数えきれないほどしてますが、30年選手としてこれだけダメージが少ないのは本当に運が良かったと、我ながら思います。丈夫な身体に産んでくれた母親に感謝としか言いようがない。先日、藤原喜明さんにも言われたんです、お前は五体満足なうちに引退できて幸せな奴だって。

─やはり、五体満足なうちに引退したいという気持ちもあったのでしょうか?

それは一切なかった! だって、そんなこと考えてたら試合できないもの。結果的に、大きなケガや故障がなくリングを去ることができた、っていうだけなんですよ。

─だとすれば、引退を決意された理由はどこにあったのでしょう?

選手なら誰でもそうだと思いますけど、自分の中に「こうあるべき」っていうプロレスラー像があって。その理想像を体現することが難しくなってしまった、というのが引退を決意したいちばん大きな理由ですね。


Photo by Shuya Nakano

─それはフィジカルとメンタル、どちらの要因が大きかったのでしょう?

どちらもありますよ。30代の頃、長州力さんに言われたことがあるんです。「俺くらいの歳になると、リングに上がるのがしんどくなるときが、絶対でてくるぞ」って。そのときは頷きながらも、そんなことあるわけないじゃない、って内心で思ってたんですけど……。この歳になって、その意味がようやく理解できたというか。

─具体的には、どのようなところが「しんどく」なるんでしょう?

ズバリ、疲れが取れなくなった! 若いころは、どんなに試合で無茶したりその後で夜更かししたりしても、一晩寝れば翌朝には、さぁ頑張るぞ~って気持ちになれたのが、そうはいかなくなってきたんです。特に2~3週間くらいのツアーになると、回復よりも蓄積のほうが勝ってしまって。いざリングに上がるときにも、まだ疲れが残ってるなぁ、しんどいなぁって思いが、頭をよぎる瞬間が出てきちゃった。練習するときだって、みんながやってるから自分もやらなきゃな、って思うようになったりしてね。昨日の試合でちょっと首を痛めたから、今日の練習は軽めにしておいたほうがいいかな、とか。逃げ道を探す自分が出てきたんですよ、正直な話。

─プロレスをすることが楽しくなくなってきた、ということでしょうか?

そりゃぁ、リングに上がって試合をしているときは今でも楽しいよ! 練習だって、強くなるために進んでするんだから、本来は楽しいものだよね。ツアーだって楽しいことが一杯あるし。でも、すべて丸ごと楽しめてるのか? って問われたら、即答ができなくなってる。だとしたら、自分の「プロレスが好きだ!」って気持ちに、嘘をついてるようなもんじゃない? そこなんですよ。


Photo by Shuya Nakano

─リングに上がって闘うことに対して、恐怖をおぼえるような瞬間も出てきましたか?

それは今に限ったことじゃなく、毎回ありますよね。これだけ長くやってても、いまだに試合前には緊張で吐き気がする時がありますもん。花道を一歩でも踏み出せば、お客様の前で理想の試合を目指すだけだけど、花道から一歩内側には、ある意味恐怖しかない。だって、今はこうして元気に喋っていても、次の試合でどうなっちゃうか誰もわからないんだよ? それは恐怖だよね……。だから僕は、控室からリングへ向かっていく選手たちに、いつでも必ず声をかけるんです。「ケガだけはするなよ」って。とにかくケガがいちばん怖いよ。どんなに練習を積んだって、何をしたって(ケガは)一瞬ですべてを持っていっちゃうんだから。

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