獣神サンダー・ライガーの幸福な「最終章」と、その先に広がる「新章」の夢

「ケガだけはするなよ」。その言葉に込められたライガーの祈り

─ケガといえば、高橋ヒロム選手が東京ドーム大会初日(1月4日)で復帰しますね。31年間、大きなケガなく引退するライガーさんと入れ替わるように、首の負傷から約1年半ぶりにリングに戻ることに、ある種の因縁を感じてしまいます。

まさにタイミングだよね。彼って僕から見ても、常にワクワクさせてくれるというか、存在だけで何かを期待させてくれるオーラを持っているレスラーなんですよ。

長期欠場以前も、新しいジュニアヘビー級の世界を築こうという気概を強く感じました。

ビッシビシ感じたよね。実際、彼なら新しい世界を築くだろうし。

─それだけに、限界ギリギリの領域に足を踏み入れていたのかな、という印象もありました。

だからこそ、僕は言うんです「ケガだけはするなよ」って。紙一重の限界に挑むのはレスラーとして当然のことだし、それをするからお客様も期待をしてくれるわけですし。でも、どんなに素質があっても、どんなに練習を積み重ねても、どんなにお客様に期待をされても、ケガをしたらダメなんですよね。


Photo by Shuya Nakano

─31年間、大きなケガをせずにプロレスを続けてきたライガーさんだけに、重みのある言葉ですね。では、どうすればケガをせずにいられるんでしょう? ご自身で、心がけていたことは何かありますか?

……まぁ、運だよね。それ以外は、何もない!

─身もふたもない‼

アハハハハ(笑)。でも、そうとしか言いようがないんですよ。ケガをしないほうが不思議な仕事なんだもん。実際の話、こればっかりはどうしようもないです。でもね、僕が言うのもアレだけど、運を味方にできるのも才能なんですよね、プロレスラーとしての。ヒロム選手には、その才能も身に着けてほしいし、そうなれるレスラーだと思っていますよ。だから、心から何度でもホントに言いたいよね「ケガだけはするなよ」って。

引退試合は「腹いっぱい」の後で味わうデザートのようなもの

─「運を味方にできるのも才能」という言葉もまた、ファンとして大きく頷けるものがあります。1月4日に行われる引退試合(1)に出場する、ライガーさんと縁の深い選手も、皆さん紙一重の世界を何度も体験した方々ばかりですものね。ザ・グレート・サスケ選手なんて、まさに生きているのが奇蹟としか言いようのない無茶(和式の棺桶をスッポリ被って場外へダイブなど)を続けてますし。

だよなぁ! 頭蓋骨骨折したまま試合してたこともあるっていうじゃない。「なんか頭が痛いなぁとは思ってたんです」って言ってたけど、どう考えても激痛だろって(笑)‼ サスケ選手と比べるのもどうかとは思うけど他の選手だって、みんなそうですよね。運がよくなきゃ、こんなに長くレスラーを続けられないよ。


Photo by Shuya Nakano

─対戦相手のなかでは、やはり長年のライバルである佐野直喜選手の存在が気になるところ。今でも連絡を取りあったりしているのでしょうか?

ないない。全然してないですね。そもそも僕ら昭和世代のレスラーって、対戦相手のことなんて気にしないというか、試合の直前までカードを知らないことが当たり前だったんですよ。会場に貼りだされた対戦表で、初めて対戦相手がわかるんだもん。今は事前のプロモーションというか、お客様のことを考えてあらかじめカードが発表されますけど、それでも僕なんかは、その他の試合は当日まで(カードを)見てないことのほうが多いかな。タイトル戦とかは別ですけど。


Photo by Shuya Nakano

─相手が誰だろうと関係ない、というような。

自分のベストを尽くすだけですからね。今回の引退試合に参戦してくれる選手は、みんなそうなんじゃないかな。確かに佐野とは長年のライバルだけど、それだけにパッと当日組み合うだけで、互いにベストが出せると思いますよ。

─このインタビューをしている時点では1月5日の東京ドーム大会2日目に行わる引退試合(2)のカードが未定になっています。引退試合(1)で、ライガーさんに縁の深い選手が勢ぞろいするだけに、(2)では誰と闘うことになるか、非常に気になるのですが。

そこですよ! 1月4日の試合が、獣神サンダー・ライガーの30年、そして新日本ジュニア30年の総決算だとすれば、5日の試合ではジュニアの“最先端”を、お客様に観ていただきたいし、自分自身も味わってみたいんです。自分の中では、対戦相手の候補は既に見えてるんですけど、“最先端”と闘いたいという点で、なかなかね。


Photo by Shuya Nakano

─大きなヒントをいただけた気がします。新日本ジュニアの“最先端”という以上、候補は限られますから。ファンとしても、ライガー選手とともに歩んだ新日本ジュニアの過去と未来を東京ドームで目撃できるのは、とても楽しみです。

4日の引退試合(1)も、単なる過去の振り返りとしては観てほしくないんですよね。だって佐野直喜、大谷晋二郎、高岩竜一、そして藤波辰爾さんも“過去の選手”ではないから。歳は取ったけど、その分進化もしてるわけでね。その点で言えば、僕も含めた参戦選手の“最先端”を観てほしいんですよ。昔の僕らの試合を観ている人ほど、きっと新しい発見や感動があるはずです。いわゆるレジェンドの試合で終わらせるつもりはありませんから!

─引退試合に懸ける意気込みが伝わるというよりも、引退を目前にしてもなお止まらない、ライガーさんのプロレスに対する貪欲さをひしひしと感じてしまいます。先ごろ引退した天龍源一郎さんは、プロレス人生の幕引きを「腹いっぱい」という言葉で表現していました。東京ドームで行われる2つの引退試合で、ライガーさんも「腹いっぱい」になれると思いますか?

それを言えば、すでに「腹いっぱい」なんですよ。だからこそ引退を決意したともいえるわけで。

─だとすると、引退試合はどういう位置づけになるのでしょう?

「腹いっぱい」プロレスを味わった後の、いわば「デザート」かな、僕にとっては。ほら、女性がよく言うじゃないですか、デザートは別腹って(笑)。コース料理をたっぷり楽しんだ後、別腹で2品もデザートが食べられるなんて、本当に幸せなことだし、お客様にも最高のデザートを味わってほしいですよね。

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