ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖

そんなことを意識してこの曲を改めて聴いてみるとジョーイによるサックスの旋律が東欧系ユダヤ人、アシュケナジムのコミュニティで生まれた音楽であるクレズマーのようにも聴こえます。ジャックの父親は不動産の仕事をする傍らでクラリネット奏者としてクレズマーバンドを率いており、ジャックも13歳の頃にバンドにドラマーとして参加していたそうです。また、ジョーイ・ドーシックの祖母はホロコーストの生存者とのこと。ちなみにヴルフペックも取り上げた彼の「Grandma」は彼女のことを歌った曲です。

「The Baal Shem Tov」のリズムの土台になっているのは、冒頭でも少し触れましたが、フェラ・クティに代表されるアフロ・ビートです。フライヤーズのプロデューサー、ジャックがかつて作成したFunkletというファンクのビート・パターンを解説したサイトではフェラ・クティの「Expensive Shit」やトニー・アレンの「Same Blood」が取り上げられていました。また、ネイト・スミスも自身のビートのみで構成されたアルバム『Pocket Change』収録の「Ghost Thud(For Mr. Allen)」でアフロ・ビートを披露しています。タイトルの「Mr. Allen」はトニー・アレンのことでしょう。この曲でのパターンが「The Baal Shem Tov」で踏襲されていると考えて良いかと思われます。

YouTubeに上げられたヴルフペック関連の動画に寄せられたコメントで一番多いのはやはりジョー・ダートを礼賛するものです。しかし「The Baal Shem Tov」ではネイト・スミスを称える声のほうが多いです。たしかに凄まじい演奏なのでそれも頷けます。

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