自慰を禁じるインターネット・ミームに隠された「極右」の痕跡

No Nut Novemberに便乗する極右思想

Coomerという言葉は「OK coomer」という文脈でも使われている。「OK boomer(訳注:ベビーブーマー世代の大人を冷笑するミーム)」をもじったもので、No Nut Novemberや自慰禁欲全般に批判的なツイートへ対抗する形で現れた。「マスタベーションを支持する劣勢のベータ軍と、NoFapを支持する優勢のアルファ軍との戦国絵巻、といった様相を呈しています」とホーキンス氏。



大半のミームがそうであるように、coomerも棘のある皮肉以上のメッセージを発信している。しかも、ほんの軽い冗談のつもりなのか、それとも本気で自慰をする男をおちょくっているのか、そう簡単には見分けが付かない。だが、暗に言わんとすることは明白だ。「マスタベーションは何が何でも抑制するべき欲求である」ということだ。ポルノとメンタルヘルスを研究する臨床心理学者兼セックスセラピストのデヴィッド・レイ博士は、No Nut Novemberを批判するツイートを投稿した後にこのミームを目にし、「反ユダヤ主義に女性蔑視、ホモフォビアなどを全部ひっくるめて、不安に駆られた憎悪をずらり並べた世にも恐ろしいビュッフェ料理」と例えた(レイ博士はStripchatというウェブカメラサイトと組んで、性に関する質疑応答を行い、また自ら出演して、No Nut Novemberに関する俗説の嘘を暴くつもりだ)。

自慰を控えることは健康に非常に良い、という考えは、精液を体内に留めておくとテストステロンの量や精力アップにつながるという(主にインターネットで喧伝されている)説に基づいている部分もあるが、この説が間違いであることは広く知られている。しかしこのマスタベーションは女々しいものであるという考えは「分厚い埃をかぶった男らしさ」に根付いていて、その多くは極右集団によって推進されたものだとレイ博士は言う。例えば、暴力傾向で知られる過激極右グループProud Boysはずいぶん前からメンバーに対し、男性ホルモンが増して女性にもっとモテるようになるからと、マスタベーションの節制を呼びかけてきた。確かに、グループの創始者ギャヴィン・マッキネス氏は2015年の極右会報誌Taki’s Magazineの記事で、NoFapを大絶賛していた(NoFap関係者はProud Boysとの関係をきっぱり否定している)。

Translated by Akiko Kato

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