KIRINJIが語る、新しい音楽への好奇心と「断絶の時代」に紡ぐ言葉

新鮮な気持ちで作曲に挑まないと、完成までたどり着かない

─ところで今回、サウンド的にはどの辺の音楽が共通言語になっていました?

堀込:ラファエル・サディークの新作『Jimmy Lee』とか。話には出なかったけどビリー・アイリッシュとかね。あんなに低音がブワッと出ている楽曲が、普通にみんな聴いていて「かっこいい」と言われている状況にはインスパイアされました。他にはポスト・マローンの、ちょっとロックっぽいテクスチャなんだけどローもたっぷりある感じ……今は、完全にそっちにシフトしているんだなって思いますし、実際そういうものを気持ちいいと感じるようになってくると、従来のポップスの音像だとちょっと物足りなくなってくるんですよね。



─アルバムの中で、特にアレンジや音像などが振り切れた楽曲というと「善人の反省」になりますかね。

堀込:あの曲は最初、ローファイ・ヒップホップみたいなアレンジにして、2分くらいでお茶を濁そうかなと思ったんですよ(笑)。

千ヶ崎:確かレコーディングの最後に出来たんですよね。高樹さんのアレンジって、いつも完成形がはっきり分かるくらい最初の段階から作り込んであるのですが、あの曲は珍しくそうじゃなかった。ピアノとメロディと、仮のループ・パターンくらいで送られて来ました。でも、たまにはこういうのに自由にベースを当ててみて、あとからギターや歌を乗せていくっていうのもやり方としては面白いなと。KIRINJIではほんと、初めての試みだったし。

堀込:ただ、最初から最後までローファイ・ヒップホップだけだとさすがに飽きるなと(笑)。もう少し面白みのあるものにしたいと思って、ギター・ソロに対してメロディを乗せてみました。要するに、ジャズでいうところのヴォカリーズというか。ああいうノリで出来ないかと思い、歌詞カードを見ながら歌とギターを同時に考えていきました。

─歌詞から作るのって、珍しくないですか?

堀込:実はここ何作か、サビやBメロはしっかりメロディを作り込みつつ、ヴァースに関しては先に歌詞を書いて、それをもとにメロディを派生させるということをやっています。今作だと「killer tune kills me」の、弓木さんが歌っているパートはそういう作り方ですし、「『あの娘は誰?』とか言わせたい」のサビ以外もそう。基本的に歌詞を書いてから、それをどうメロディにしていくか? という発想で作っています。

─なぜそういうやり方にシフトしたんですか?

堀込:Aメロからサビまで全てメロディをかっちり決めてしまうと、なんかニューミュージックっぽくなっちゃうんですよ。今の日本のポップスって、2拍3連や5連符のように、譜割に特徴のあるものが増えていますよね。中村佳穂さんやSIRUPにもそういう曲があって、やっぱりすごくカッコ良いい。彼らはラッパーではないけど、リズムの取り方が明らかにヒップホップ以降の発想なんです。そういうものを、自分でも何か出来ないかなと思ったところから始まった試みです。

─これもまた別のインタビューで高樹さんは、「以前(『DODECAGON』の頃)はそれまでのキリンジに対し、どうやって別のイメージを備え付けるかが念頭にあった。でも今回の場合は、現在の音楽シーンにどれくらい寄せていけるかという意識のほうが強い」と話していました。「現在の音楽シーンにどれくらい寄せていけるかという意識」は、単純に新しい音楽への好奇心からきているのか、あるいは「危機感」のようなものなのか、最後にお聞かせください。

堀込:危機感のようなものは特にありませんが、ただ作る時に新鮮な気持ちで挑まないと、完成までたどり着かないんです。例えばピアノで曲を作り始めるとして、ミドルテンポのいい感じの曲が出来たと。「最近、こういうのやってなかったから仕上げてみるか」という感じで始めても、途中で嫌になってくる。「これだったらドラムを録って、そこにベースを重ねて、ピアノはこんな感じで」っていうふうに先が見えてしまうと盛り上がらないというか。

─下手したらボツになるかも知れない、くらいの緊張感があったほうが作り甲斐があると。

堀込:「これが出来たら大変なことになる!」みたいな気持ちで制作に当たるというか、自分でもどうなるか分からないような、今話した「善人の反省」みたいな曲もそうだし。そういうところに面白さを感じているのでしょうね。



KIRINJI
『cherish』
2019年11月20日リリース
初回限定盤ボーナスDVD:
「killer tune kills me feat. YonYon」、
「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」のミュージックビデオを収録。


 [初回限定盤] [SHM-CD+DVD]


 [通常盤] [SHM-CD]

KIRINJI TOUR 2020
2020年2月28日(金) 札幌 PENNY LANE 24
2020年3月5日(木) 広島クラブクアトロ
2020年3月7日(土) 福岡 イムズホール
2020年3月13日(金) 仙台 Darwin
2020年3月18日(水) 大阪 Zepp Namba (OSAKA)
2020年3月20日(金・祝) 名古屋クラブクアトロ
2020年3月24日(火)、25日(水)LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
2020年3月28日(土) 沖縄 桜坂セントラル

KIRINJI公式ページ:
https://www.kirinji-official.com/

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