鮎川誠がシナロケ新作でカバーにこだわった理由「ロケッツの真ん中を貫くロック原体験」

初のライフタイム・カバー・アルバムを出すことになった経緯

そんな彼らの記念すべき42周年を祝うかのように、彼らにとって初のライフタイム・カバー・アルバム『LIVE FOR TODAY!』が発売される。元々は2014年4月の『ROKKET RIDE』のレコーディング時に、余った時間でスタジオ・ライヴ風に当時の新たなレパートリーやバンドでやってみたかった曲を次々と演奏し、録音したのがこのアルバムに収録された1曲目の「Loudmouth」から7曲目の「レモンティー」であった。その7曲に陽の目を見させたいと鮎川氏が思ったところから、この企画はスタートし、その音源に88年の『HAPPY HOUSE』のNY録音時のデモ・テイク(「Peter Gunn」「KISS KISS KISS」「朝一番列車のブルース」「ボントンルーレ」)や1996年のアルファ・レコードのAスタジオ閉館前の最後に録音されたデモ録音(「JOHNNY B. GOODE」「MY BONNIE」)、1997年発売の『@HEART』のためにシーナと鮎川誠が2人でシンク・シンク・スタジオで録音した96年のデモ音源(「SUGAREE」「Heart Of Stone」)、その「Heart Of Stone」は2006年に出たローリング・ストーンズのトリビュート・アルバム『リスペクト・ザ・ストーンズ』に収録され、「You Really Got Me」は2002年にビクターから出たキンクスのトリビュート盤『キンキー・ブート』のために新たに録音され収録されたテイク。また「What Becomes Of The Broken Hearted」は2004年に久保田麻琴がプロデュースしたモータウン・トリビュート・アルバム『SAKURA MOTOWN REVUE』のために録音された秘蔵テイク、そして「WILD THING」は2001年8月17日の北海道ライジング・サン・ロックフェスティバルにシナロケが出演した時のライブ音源……それらすべてを1枚のアルバムに収めたのがこの『LIVE FOR TODAY!』なのである。


Courtesy of JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント

今までのアルバムでも、彼らのお気に入りの洋楽のカバー曲が紹介されていることも多かったが、こうして1枚のアルバムで18曲のカバー曲をまとめて聴くと、シナロケというバンドの中に脈々と流れているロックの神髄というものがまざまざと浮かび上がってくるのを感じる。勿論洋楽のカバーだけではなく、鮎川誠がシナロケ以前に在籍し作曲を手がけ、シナロケでもたびたびカバーしてきた博多の伝説のリアル・ロック・バンド、サンハウスの「雨」や「レモンティー」や「朝一番列車のブルース」、そして意外にもあの故萩原健一がボーカルだったグループ・サウンズのテンプターズのカバー曲「今日を生きよう」が収められているのも嬉しい。67年にアメリカのグラスルーツが放ったヒット曲をテンプターズが日本語詞で歌ったものだが、シーナは昔からショーケンやGSが大好きだったということで、とても雰囲気が出ていると思う。「ボントンルーレ」はシーナの82年の初ソロ・アルバムに収められていたナンバーで、細野晴臣プロデュースのポップな香りに満ちていたが、ここではシナロケでのよりロッキンなグルーヴを放っている。


Courtesy of JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント

他は全て洋楽のカバーだが、キンクスの「You Really Got Me」、チャック・ベリーの「JOHNNY B. GOODE」、トロッグスの曲でジミヘンのカバーでお馴染みの「WILD THING」といったところはロックの王道と言えるが、他はビートルズがデビューする前にビート・ブラザーズ名でトニー・シェリダンのバックで演奏した「MY BONNIE」、ストーンズは64年のアメリカ盤シングル曲の「Heart Of Stone」、ラモーンズはコアな「Loudmouth」、モータウンではジミー・ラフィンの「What Becomes Of The Broken Hearted」と、あえて王道の誰もがやりたがる代表的ヒット曲を外して、彼らならではのマニアックな思い入れを込めた選曲になっているのが渋い。

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