元米議員のヌード写真流出騒動に見るメディアの罪

露呈したメディアの倫理感の低さ

ある意味、RedStateが勝手にヒルのヌード写真を公開したがるのは不思議でも何でもない。デイリーメール紙ともなればなおのことだ(ヒル氏はリベンジポルノ専門の弁護士キャリー・ゴールドバーグ氏の事務所と代理人契約を締結した。彼女が両メディアを訴える可能性もあるが、アトランティック誌の記事によれば、両メディアはヒル氏の自宅があるカリフォルニア州のリベンジポルノ法の抜け穴をついてくるだろう。この法律では、公共の福利に基づく画像公開を例外として認めている)。これまでにも、パークランド銃乱射事件の生存者や、民主党全国委員会の職員セス・リッチ氏の死に関する陰謀論を展開してきた右派メディアRedStateは、右派支持者からの大量クリックを狙って、従来の報道手順を無視してきた経歴がある。

女性スタッフとの三角関係にある、魅力的で、前衛的な若い女性の筋書なんて彼らの読者層のために書かれたと言われても驚かないだろう。デイリー・メール紙も、フットボール選手の妻のポロリや、真意のほどが疑わしいロシアのクリック製造工場から集めた記事を、巨大な見出し付きで報じることであまりにも有名なので、いちいち報道の手順を踏んでいないと咎めるのもばからしく思える。だが、両メディアの基準が低いからといって、基準が全く存在しなくて良いわけではない。事実どちらの記事に対しても、党派を越えた大きな反発が上がらなかったことからも、我が国の政治的対話がいかに病んでいるかが伺える。

ヒル氏の記事で特に驚いたのは、メインストリームのニュース媒体に加え、左派寄りの媒体までもが、こぞって食いついたことだ。大半の媒体が、RedStateやデイリー・メール紙がヒル氏のヌード写真を公開したのは横暴だと一応は認めたものの、事後報道の多くは、ヒル氏の失脚から透けて見える政治的対話の衰退、もしくは政界で女性が直面するダブルスタンダードに集中している。中には、(スタッフと関係を持ったという、表面的な倫理問題ではなく)そもそもヒル氏は写真を撮影するべきではなかったと仄めかす者までいた。

ナンシー・ペロシ下院議長が、ヒル氏の失墜は彼女がヌード写真を撮影したせいだと明確に発言した後、モーリーン・ダウド氏はニューヨーク・タイムズ紙への寄稿記事で、なぜだかTikTokのミームとシェイクスピアの一文を引用しながら、これを反復した。「自分の身――そして自分のデータも――自分で守らなくてはなりません。輝かしい最新ツールに目をくらまされて、人間性の恐ろしい真実は変わらないという事実を忘れてはなりません。他人に武器――または裸体――を与え、自分を脆弱な立場にさらし、夢を奪い取られないでください」

こうした主張の中でダウド氏もペロシ議長は、巷でよく耳にする「被害者に責任がある」という意見をそっくりそのまま繰り返している。そもそもヌード写真を撮ること自体が、他人に利用される隙を与えているのだと。だが、成人のほぼ88%が過去1年間にパートナーと性的なメッセージや写真をやり取りしたと回答していることを踏まえれば(かつ、同意の下での成人同士のセックスライフは、他人が口出しすることではないという基本的事実を踏まえれば)、先の主張は他人への共感が驚くほど欠如しているのみならず、デジタル文化全般への理解に欠けている。

ホーガン氏の記事が出てから6年以上、ゴーカー倒産から3年以上が経過した。以来、同意なきポルノや被害者に与えるトラウマは、政治家の間や社会全般で公然と語られるようになってきた。結果、猥褻な画像や動画を同意なしで投稿することを禁じる法律が、ワシントンDCを含む46の州で可決された。こうした現象に対する社会全般の意識が高まっていることを考えれば、加害者が女性を支配し、辱める手段としてリベンジポルノを使っていることに関しても、同様の認識があってしかるべきだ。組織、特にニュース媒体がこうしたプロセスに加担してはならないという暗黙の理解は言わずもがな。政治の汚い駆け引きと、個人の尊厳の保護は全く別物だという理解もあってしかるべきだろう。だが、ケイティ・ヒル氏の辞職からわかることがあるとすれば、我々は全く何も学んでいない。

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE