怪死した性犯罪疑惑の大富豪、自殺ではなく他殺の可能性も

結論に至るには不十分な証拠

バナジー博士曰く、今回のように精密な検死が行われる場合、遺体のあらゆる骨のX線を撮影し、細部を顕微鏡で観察するのが通常だという。さらに骨折の原因を詳しく追及するために、法人類学者に追加確認をしてもらうこともあるという。「首の損傷の検死は常に厄介です。一般的に首は非常に守られた部位なんです」と言うバナジー博士は、縊死や絞殺など首の損傷が絡んだ事件を何百件も担当してきた。「舌骨は、U字型をしたとてもデリケートな骨です。七面鳥の叉骨が簡単に折れるとの同じように、圧を加えると簡単に折れてしまいます。舌の土台、首の一番上にある非常に守られた箇所なので、そう簡単には届かないんです」

喉頭の中にある喉ぼとけについてもバナジー博士は説明してくれた。喉頭の側部は首の後ろに向かってだんだん細くなっていて、より損傷しやすいのだという。「疑いの目で見れば、私ならこれを自殺による損傷の範囲内だと考えることはないでしょうね」と博士。「これらの損傷は確かにかなり異常です。疑問を禁じえません」
法医学コンサルタントを行う企業PathologyExpert Inc.のCEOで認定法医学者のジュディ・メリネク医学博士によると、骨折の箇所や位置よりも、死亡現場の状況や損傷に関する他の検死視内容をふまえたうえでの骨折箇所に対する索状痕の位置のほうが重要だと言う。

「もし骨折のあった場所が索状痕の跡の周辺ではなく、腕に防御創があれば、事件は首吊り自殺と見せかけた他殺の線のほうがしっくりきますね」とメリネク博士。今回の検死には直接関与していないため、具体的なコメントはできないと断りを入れたうえで、ローリングストーン誌に語ってくれた。「もし、遺体に他に損傷がなく、舌骨と甲状軟骨の骨折箇所が索状痕と符合していれば、首吊り自殺だろうと考えるのが現実的です」 。これまでのところ、防御創に関する証拠は公表されていない。確認するべく検視局にコメントを求めたが、返答はなかった。

エプスタイン被告の首の損傷に加え、バーデン氏は眼球の出血も指摘した。彼曰く、眼球の出血は絞殺ではよく見られるもので、首吊り自殺では、ゼロとは言わないが、あまり見られないという。バナジー博士が言うには、絞殺の場合と同じく、首を吊った場合でも――全体または一部かはさておき――眼球の縁に細かい点状出血が見られるという。

「私に言わせれば、この発見は具体性に欠けますね。どちらとも言えません」

だがメリネク博士も指摘しているように、現在入手できる情報だけで実際に何が起きたのかを知るには不十分だ。「警察の捜査報告書や現場の写真、検死の画像、刑務所の監視カメラ映像などが公開されるか、民事裁判手続きの中で明るみにされるまで、主任検視官のサンプソン医師やバーデン氏の根拠が不確かかどうか、知るすべはありません」と博士。

またメリネク博士は、主任検視官に与えられていた警察の情報へのアクセス権限がバーデン氏には与えられていなかったのではないかと述べた。現在進行中の捜査状況を除いて、入手可能なあらゆる証拠にアクセスできるのはサンプソン医師とチームだけなのではないかと言うのだ。とにかく現時点では、今後さらに発見があるのか――それとも、今回の件は単にエプスタイン被告が自殺したという公式見解に疑惑の目を向けさせようとしただけなのかは、定かではない。

Translated by Akiko Kato

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