捜査ツールはSNSとポッドキャスト、一般市民が殺人事件解決に貢献

副業「デジタル探偵」の始まり

「あの夜ベッドの中であの映像を見て、頭の中で何かがひらめいたんです。『待てよ、僕にはこれを解決する手立てがあるぞ』と思ったんです」とジェンセン氏。彼は自らこの事件の解決に乗り出すことにした。

これがデジタル探偵の始まりだ。ジェンセン氏の新著『Chase Darkness With Me(原題)』とポッドキャスト『The Murder Squad』でも取り上げられている。ソーシャルメディアを使えば、あとは身の回りにあるもので誰でも事件解決に一役買うことができる、とジェンセン氏は言う。実際の犯罪への興味が日に日に高まる中、ついにファンが行動を起こすべき時が来たのだ。「僕は一般市民も、過去の未解決殺人や暴力事件、行方不明者を解決する手助けができると固く信じています」と、彼は著書の中でこう書いている。犯罪マニアたちに手ほどきすれば、責任ある市民探偵に仕立てることができると彼は言う。必要なのは、仕事をやりぬく熱意と意思だけだ。

長年犯罪ジャーナリストとして活動してきたジェンセン氏は、ローリングストーン誌などの調査報道の多い週刊誌や月刊誌に未解決事件をテーマにした記事を執筆してきた。「実際に変化を起こすことができるような、そんな記事を書きたいと思っていました」と彼は言う。 また2010年頃からデジタル戦略の分野にも携わり、メディア企業のためにオンライン上の露出拡大策を立案したり、試行錯誤を繰り返してはどうすればFacebookでのクリック数やシェア数を上げられるかを学んだ。友人で犯罪作家仲間のミシェル・マクナマラ氏の死後、未完の著書で後にベストセラーになった『I’ll Be Gone in the Dark』の完成にも手を貸した。その時出会ったのがポール・ホールズ氏だ。彼はベテラン捜査官で、現在はジェンセン氏と一緒にポッドキャストの司会を務め、リスナーに次なる未解決事件の解決を促している。

市民捜査は、かつて厳しい批判を受けた過去がある――FBIがボストンマラソン爆弾事件の容疑者の監視カメラ画像を公開した際、情報提供者が殺到して、身元誤認が何度か起きた。また別の時には、ニューハンプシャーで行方不明となったモーラ・マレーさんの事件を解決しようとしたジャーナリストは、マレーさんの父親――容疑者リストに名前が挙がったことは一度もない――から取材拒否されたことを理由に、父親が怪しいと自著の中で述べた。

半自叙伝、半ガイドブック的な『Chase Darkness With Me』には、責任ある市民探偵の仕事上のルールが書かれている。ひとつ目はボストン爆弾事件からの教訓。決して具体的に名指ししないこと。情報は警察に直接伝えること。また、捜査を始める前に遺族に連絡して許可を取る、警察が逮捕に近づいていないかどうか確かめる、といったジェンセン氏の実例アドバイスも盛り込まれている。「自分が首を突っ込んだために、容疑者がビビッて逃げる、なんてことにはしたくありませんから」とジェンセン氏。


カリフォルニア州検事局コントラコスタ郡の元捜査官、ポール・ホール氏(Photo by Jason Henry/The New York Time)

Translated by Akiko Kato

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