『ターミネーター:ニュー・フェイト』映画評:サラ・コナーが世界を救う

しばらくすると、トラックが止まり、そこから道路に降り立つブーツがスクリーンに現れる。ついに原点のサラ・コナーの登場だ。彼女はサングラスをかけ、めちゃくちゃにストイックで象徴的な出で立ちをして、疾走するREV-9を撃ち倒し、最後のとどめとしてロケットランチャーを使う。それはキャラクター(そして俳優)にふさわしい映画の登場の仕方であり、劇場では観客が抑えられない歓声をとっさに上げることになるようなものだ。彼女はこのシリーズで一番有名なセリフを横取りさえもする。歳をとったT-800は登場すると、新しいキャストと以前からの共演者に対して思いやりを持ってスクリーンの空間を共有していくことになる。だが、このコナーの登場シーンからは『ニュー・フェイト』はハミルトンのものとなる。彼女は色褪せたワークパンツの後ろポケットに優れた本作品を静かに滑り込ませて自分の物とし、立ち去っていく。そして、他のすべての役者が演じるのは、彼女の映画の中となっていく。

シュワルツェネッガーも例外ではない。T-800として再演するが、今は地方に静かに暮らしている。具体的に言うと、テキサスの奥地で家族と日々を過ごし、カーテンのプロとして生きている。コナーはこの旧式のモデルに対して敵意を抱いている。ただ、ダニーが世界を救うにはT-800の助けが必要なこともわかっている。言い争いや冗談の言い合いは、ハミルトンの情熱的かつ隙のない話振りであったり、シュワルツェネッガーのロボットとして最大限にセリフを意図的に平坦に話す口調であったりする中で、間延びする決まり文句を繰り広げることはなく、懐かしく思うことはない。彼らの間の摩擦が本映画の燃料となっていて、これまでの歴史や『冬のライオン』のような深刻な態度も同様に映画の燃料となっている。また、良くも悪くも、そして酷くても、「ターミネーター」シリーズはすべて、大前提として前へ進もうとする勢いのある映画だ。次から次へと追跡シーンを重ね、猫とネズミの追いかけっこの物語の骨子に頼っている。この2人の演者は『ニュー・フェイト』に必要とされる肉と骨を提供した。ハミルトンは筋肉と心、魂を与えているが、考えてほしい。これまでの映画でも常にそうだった。だからこそ、彼女の再演によって本作品は元来の形へと戻ってくれたのだ。そして、アーノルドは喜んで静かにサポートに徹し、ハミルトンは作戦の舵取りをすることができる。

本作は映画に関する以外のことに首を突っ込んでいるように思うことがあるかもしれない。特に、テキサス州とメキシコの国境沿いの移民拘留センター内での冒頭のアクションシーンではそうだ(このメジャー大作はラテン系女性を今の時代の人類の救世主にすることで政治的な発言をしていることになる。そのことを意識するのを気にするかどうかは関係ない)。だが、シュワルツェネッガーが中心人物の3人と合流すると、映画はキャッチアンドリリースを繰り返すような分かりやすい流れへと収まっていく。善良なキャラクターは逃亡し、REV-9はドローンやヘリコプター、車、自分の足を使って彼らを追跡する。両者は軍用貨物機で戦うことになるが、最初は30000フィート上空で、その後、地上へと急落していく中でも戦う。そして、貯水池の底でもそうだ。また、当然のごとく金属粉砕機械だらけの工場でも戦う。蛇の道は蛇と言うように、その場所なら金属のREV-9に勝てるからだ。

言い換えれば、『ニュー・フェイト』はアクション映画をマッシュアップしたスペクタクルの基本形だ。マッシュアップするひとつが動きの遅いT-800。ひたむきな決意と怪力で突き進んでいく。もうひとつがREV-9であり、すべてデジタルなめらかさを持ち、最先端テクノロジーを誇示している。ただ、本作品が慣れ親しんだ環境を踏みにじってしまっているのは、内輪でしか分からないジョークや何度も同じジョークを意図的でなかったとしても口に出してしまうところであり、特に皆がクライマックスの対決のために集まったあとのそういった場面だ。そして、キャメロンが20年以上も前に『T2』で開拓したCGIに対する興奮はなくなっているかもしれないが、シリーズ初期作のヒロインの戦闘ブーツ姿で戻ってくる姿が見られる興奮はまだ健在している。しかめ面に始まり、スクリーン上での存在感、鋭い目つき、感情に訴えるような口調と冷徹さが滲み出てくる早い口調の使い分け、そして、キャラクターの抱える衝動が若さよりも重要であるという感覚、そういった様々なこのシリーズに欠けていたことを、ハミルトンはしっかりと我々に思い出させてくれる。将来、彼女が戻ってくるかどうかは誰にも分からない。だが、今、彼女は本作品の中にいる。それが「ターミネーター」シリーズの中でこの作品を輝かしいものにしている理由だ。



『ターミネーター:ニュー・フェイト』

監督:ティム・ミラー
製作:ジェームズ・キャメロン デビッド・エリソン
出演:リンダ・ハミルトン、アーノルド・シュワルツェネッガー、マッケンジー・デイビスほか
11月8日(金)より全国順次公開中

Translated by Koh Riverfield

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE