シガレッツ・アフター・セックスが描く、甘く儚いドリームポップの正体

シガレッツ・アフター・セックス(Photo by Ebru Yildiz)



華やかなデビューを飾ったシガレッツ・アフター・セックスだが、その前には長い下積み時代があったらしい。バンドは2008年、テキサスのエルパソにて結成。自分たちのような音楽をやってるバンドは周囲にいなかった、とグレッグは苦笑いしながら振り返っている。

「僕の故郷ではウィルコのようなオルタナ・カントリーをやってる人が多かった。またはハードコア・バンドだね、アット・ザ・ドライヴ・インみたいな。だから、誰も僕らのことを気にしてなかったと思う。エルパソの人たちにとって僕らの音楽はメロウすぎたからね。あの街よりNYのほうが僕には合ってたんだ」



シガレッツ・アフター・セックスの音楽は、ある種のクリシェを再構築しているようにも映る。かといって、単なる焼き直しというわけでもない。ドリーム・ポップというジャンルに括られたバンドは数多くいるが、ここまで一貫した美意識をもつバンドとなると、実は珍しいような気さえしてくる。

前述のショーケース・ライブでは、バンドの演奏とシンクロさせるように、モノクロ映画をコラージュした映像をバックスクリーンに流していた。モノクロームに対する偏愛ぶりは、デビュー作と最新作『Cry』のアートワークにも反映されている。音像は極めてシンプルな作りで、徹底してミニマルでスロウ。BPMが加速したりノイジーなギター・ソロが割り込んだりすることもなく、虚無感とも似た心地よいフィーリングがどこまでも続く。バンド名さながら、永遠の賢者タイム。歌詞を通じて描かれる「夜」のストーリー。あらゆる面でリスナーのニーズを満たし、間違っても横道に逸れることはない。もはや職人的とも言える「機能性」こそ、シガレッツ・アフター・セックスが現代に愛される要因なのだろう。その点については、グレッグも自覚的に取り組んでいるようだ。

「僕が最初に買ったアンビエント・ミュージックのレコードは、ブライアン・イーノの『Ambient 1: Music for Airports』だった。彼は空港に来る人々のためにあれを作ったわけだけど、僕にとっては睡眠や、頭を空っぽにしたいときに助けてくれる音楽だったんだよね。自分が音楽をやるうえでも、息継ぎができる空間というのが大切だと思っていて。それはミニマリズムによって産み出される部分もあると思う。世の中には情報過多な音楽もあるけど、僕たちの音楽はもっとリラックスできるものにしたいんだ」



シガレッツ・アフター・セックスの美学は、ニュー・アルバム『Cry』でも揺らいでいない。オープニングトラックの「Don’t Let Me Go」を聴き始めた瞬間、彼らのファンは待ち望んでいた「第2章」であることに安心し、大いに歓喜したはずだ。アルバムはスペインのマヨルカ島にある大邸宅で夜間にレコーディングされ、映画のような瞑想感を持った作品に仕上がった。「このレコードはロケーションと完全に結びついている。究極的に僕はこのレコードを“素晴らしい場所で撮られた映画”として捉えているんだ」とグレッグは語っている。

深いリバーブと柔らかなキーボード、鼓動を思わすドラム、泳ぐようなギターの旋律、そしてグレッグの儚い歌声。基本軸はほぼそのままだが、ソングライテイティングは研ぎ澄まされ、2作目にして早くも横綱相撲のような貫禄に満ちている。「Kiss It Off Me」の味わい深いイントロ、「Falling In Love」のたゆたう浮遊感、「Pure」のフォーキーな歌心。全9曲で紡がれているのは、もちろん愛とセックスの物語。3曲目の「Heavenly」でグレッグが歌っているように、とびきり甘い天国がここには待っている。






シガレッツ・アフター・セックス

『Cry』
発売中

日本公式サイト:
http://bignothing.net/cigarettesaftersex.html

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