──確かに、思ったよりも多いですね。そして、3つ目の事実がもっとも衝撃的でした。「その初心者のうちの90パーセントの人は、1年以内もしくは90日以内でギターを辞めてしまう」というのです。かなりの人がドロップアウトしてしまうわけですね。そして、新規のプレイヤーをキープすることが出来ずにいたことも判明しました。
また、ギターを購入した人はその4倍をレッスン料につぎ込んでいました。レッスンは、プライベートレッスンのような伝統的な方法ではなく、オンラインで受けているというデータ結果も出ました。そこで立ち上げたのが、「FENDER PLAY」という会員制のオンラインレッスンです。現在は11万6千人の会員が在籍し、そのうちの10万8千人が有料会員。そして最後の事実は「初心者の中で、脱落しなかった10パーセントは一生ギターを弾き続ける」というもの。彼らは平均して1万ドルのお金をギターにつぎ込んでいます。生涯5〜7本のギターを所持し、幾つものアンプ、アクセサリーを買う。途中で辞めてしまう人の数を10%減らせばサイズは倍になる。
──(笑)。つまり、辞めてしまう90パーセントの初心者をいかに引き止め、1年の壁を超えられるかが課題になると。その通りです。フェンダーは、エレキギターは40パーセントのシェアを誇る最大のメーカーですが、アコギは全体の8パーセントと非常に弱い。アコギではテイラーとマーティンが最大のメーカー。非常に強く、独占的にマーケットをシェアしてきましたからね。でも、全体的なマーケットでいうと「エレキ人口」より「アコギ人口」の方が多い。
──そこで今回、フェンダーが本格的に乗り込むことになったわけですね。そうです。そして私には、「新しいところへ参入するには他がやっていないことを絶対にやるべき」という鉄則がある。そのため、およそ3年の開発期間を設けました。
フェンダーの創設者、レオ・フェンダー本人はギターを弾かなかったのですが、大事にしていたフィロソフィーがいくつかあります。一つは「プレイヤーの声を聞く」。自分たちが作りたいものではなく「プレイヤーが必要としているもの」を作るということ。彼は非常に「良いリスナー」だったのです。
(AMERICAN ACOUSTASONIC TELECASTER Courtesy by Fender)
──それで開発したのが、このエレクトリック・アコースティック・ギター「AMERICAN ACOUSTASONIC TELECASTER」ですね。ピックアップのついたいわゆる「エレアコ」は、通常ボディの上部にコントロール・パネルが搭載されていますよね。そのツマミで音質や音量を調整するわけですが、これってギタリストにとっては非常に邪魔なのです(笑)。触りにくいに決まっているじゃないですか。
──(笑)。レオ・フェンダーがピックガードの下にツマミを取り付けたのは、アクセスしやすいということだったのです。ならばAMERICAN ACOUSTASONIC TELECASTERも同じ場所につけるべきだと。こういうところにレオフェンダーのフィロソフィーが生きているわけなのです。ヘッドに並んでいるペグも、片側に6つ並んでいるのも、ステージの上でチューニングしやすいようになんですね。ヘッドの両側に3つずつペグが付いているアコギってチューニングや弦の張り替えが面倒臭くないですか?
──確かにそうですね(笑)。ネックとボディがボルトオンされているのも、レオがエレキギターを開発した時の工夫の一つです。伝統的なアコギは接着されていたり、削り出しだったりするから外す事が出来ない。ボルトオンタイプを採用したフェンダーのエレアコは、ネックが気に入らなければ交換したり、修理に出したり気軽にできるわけです。
さらに、ステージでアコギを弾く人は完全に生音ではなくてアンプを通す人が大半です。その場合、いわゆるアコギの生の音を、マイクで拾う方法しか今まではありませんでした。でも、このエレアコはFISHMAN(東海岸のピックアップ・ブランド)との共同開発したアコースティック・エンジンを搭載しています。これにより、レゾナンスが細やかにチューニングされ、より自然に鳴るようにトーンが最適化されました。FENDER ACOUSTASONIC NOISELESSピックアップを搭載しており、MOD KNOBの調整によって、アコースティックとエレクトリック両方のトーンをブレンドして、新しいサウンドを作り上げることも可能です。
──ギタリストからの反響はいかがですか?私たちのプライオリティは、プロのミュージシャンに受け入れてもらえることです。そういう意味では、このAMERICAN ACOUSTASONIC TELECASTERを発売した時、最初にジャック・ホワイトとビリー・アイリッシュのお兄さんから「使いたい」との問い合わせが来たので、「私たちの狙いは間違っていなかったな」と確信しました。