ワープ30周年記念イベントで体感した、エレクトロニック・ミュージックの可能性

スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが出演した『WXAXRXP DJS(ワープサーティーディージェイズ)』の模様(Photo by Masanori Naruse)

先鋭的なアーティストを数多く輩出してきたワープ・レコーズの30周年を記念して、レーベルを代表するアーティストが一堂に会するスペシャルDJツアー『WXAXRXP DJS(ワープサーティーディージェイズ)』が東京・大阪・京都の3都市で開催。その初日、11月1日に渋谷のO-EASTとDUOの2会場で行われた東京公演のレポートをお届けする。

スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオーーハロウィン明けの週末に〈Warp Records〉の30周年を記念して行われたレーベル・ナイト『WXAXRXP DJS(ワープサーティーディージェイズ)』にDJとして集結したこの3名のアーティストは、いずれもインディー・レーベルとして30年間に渡ってエレクトロニック・ミュージックのみならず、様々な音楽シーンを揺さぶり、新たな風を吹き込んできた〈Warp Records〉の歴史の一端を我々に伝えてくれるアーティストだ。そんな彼らのDJセットによるパフォーマンスは、30周年を迎えた〈Warp Records〉に敬意を払いながら、各々の個性を存分に発揮したものであった。



開場から〈Warp Records〉からのリリース作品のみをプレイし続け、その最後をLFOで締めるという粋なパフォーマンスをみせたagraphの後に登場したのが、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン(以下OPN)。OPNはライヴでの彼の音楽に対する鋭い嗅覚に裏打ちされた先鋭性が折り重なっていく繊細なパフォーマンスがやはり印象に残っており、DJだとどういうプレイをするのかという妙な不安もあったが、スタートにプレイしたのがイギリスのプロデューサー、レオン・ヴァインホールの流麗なディープ・ハウス「Butterflies」。彼のアルバムやライヴからは全く想像できない選曲にしばし呆然としてしまったが、このある種の思いがけなさを自身の音楽に取り入れ、我々を驚かれせてきた彼にとってはこのディープ・ハウスからスタートするのは極めて自然なことなのだろう。その後も曲と曲の繋ぎにはやや拙さを感じさせるものの、ラリー・ハードやケリー・チャンドラーのディープ・ハウスやプログレッシヴ・ハウスなどのイーブン・キックのビートを交えつつ、ラッパーのフューチャーやティエラ・ワックのトラックを挟み込んだりする遊び心があるのもまた彼らしい。エイフェックス・ツインの「Digeridoo」やビョークがLFOのマーク・ベルとともに作った「Pluto」などの〈Warp Records〉にゆかりのある曲をかけているのも、電子音楽の最先端を走ってきたレーベルに対する愛情が感じられて印象深かった。



そんなOPNが最後にまさかの「My Red Hot Car」をかけ、自身の曲に導かれるようにして登場したのがスクエアプッシャー。この夜の彼のパフォーマンスはDJセットというよりもむしろ彼の擬似ライヴ・セットと呼ぶべきで、徹頭徹尾それだけで身体が揺れるような音圧を持った攻撃的な高速ドリルンベースのみで構成されていた。序盤はBPMはややおとなしく、随所にジャズ/フュージョンを感じさせるベース・ラインとクラシカルな響きのある美しいメロディが共存するトラックがプレイされていたものの、終盤に向かうにつれてメロディはほぼ消失し、BPMは高速化。最後にはゆうにBPM200を超える凶暴でハードコアなドリルンベースが投下され、フロアは完全沸騰状態になっていた。そんなセットの締めに自身の初期の代表曲「A Journey To Reedham」が地鳴りのようにフロアに鳴り響いた瞬間は、間違いなくこの夜のピークタイムだったといえるだろう。



そんなスクエアプッシャーの狂宴による興奮がさめやらぬうちに、ビビオが登場。情景豊かで牧歌的な雰囲気も漂わせる彼の作品とは裏腹に、彼のDJはアグレッシヴ。スクエアプッシャーのBPMが速すぎたため、序盤に彼のかけたトゥナイト(ハドソン・モホークとルニスによるユニット)の重たいエレクトロがダウンテンポに聴こえる瞬間もあったものの、そんなのお構いなしといわんばかりに、ディリンジャのソウルフルなドラムンベースやマントロニクスのエレクトロをスピン。その後も自身のアルバム 『Ambivalence Avenue』からの「Fire Ant」や自身がリミックスしたホワイト・ライズの「The Power & the Glory」などを交えながら、速すぎることも遅すぎることもないリラックスしたビートでフロアを揺らし続ける。そして、最後にかけたエイフェックスの 『Analogue Bubblebath Vol. 3』からのトラックには、フロアからこの日一番ともいえる歓声があがっていた。

この夜、彼らが披露したDJセットは、当然のごとくフロアを支配するビートのBPMや選曲は異なっていた。だが、まるで各々の出自の一部を曝け出すようなパフォーマンスは、それ自体が彼ら3名が〈Warp Records〉の尖端性の一翼を担ってきたことの証明であると同時に、いかに〈Warp Records〉がその音楽性に柔軟さを持ちながら、過去と現代を往還し、エレクトロニック・ミュージックの可能性を追求してきたかを示唆するものであったのだ。

(Text by 坂本哲哉)

Rolling Stone Japan 編集部

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