「クソみたいな社会」を変えるには? Mars89がダンス・ミュージックに込めた反抗心

撮影場所:幡ヶ谷KODAビル Mars89がよく出演しているイベントスペース「FORESTLIMIT」のあるビルの屋上。西新宿の都庁まで見渡せる。(Photo by Kazuki Iwabuchim, Photo Direction by Hiroaki Nagahata)



ダンス・ミュージックとポリティカルな姿勢

―Mars89さんは、SNSなどでも現政権への怒りや違和感、社会的なイシューへの意見などを積極的に発信しているじゃないですか。一方で、日本ではいまだ「音楽に政治を持ち込むな」という考えも根強い。

Mars89:そもそものところで、ポリティカルなものを何かから切り離すってこと自体がおかしいじゃないですか。昔から自分の親もそういう話を普通にするほうだったし、よく見てた『モンティ・パイソン』には時事ネタの風刺がいっぱい入ってた。なので、それを当たり前だと思っていたんです。自分が聴いてきた音楽――ヒップホップもレゲエもパンクも、どういう社会に生きてて、それをどう思っているかを歌った曲が多い。なので、昔からポリティカルなことが特別だとはまったく思わないんです。

僕の作品を出してくれているブリストルのレーベル、Bokeh Versionsのボスとも、そういう世界との接し方でもフィーリングが合うんですよ。ブレグジットやボリス・ジョンソン、環境問題とかについて普通にカジュアルに話す人たちってだけで、そうしない人よりも僕には安心感があって(笑)。そういうカルチャーが土壌にあるってだけでやりやすさを感じますね。

―Mars89さんにとっては、Twitterでの意見発信も楽曲のリリースもDJもすべてイコールなんでしょうね。

Mars89:そうですね。ぜんぶ生活の延長です。

―レベル側の人はレベル側で団結する一方で、そうじゃない人となかなか交われないって現象も多いと思うんです。それに対して、もどかしさや問題意識を感じることもありますか?

Mars89:うーん……なんて言ったらいいかな。基本的にできる人がやるしかないんだけど、やるのであればレベル側でない人に気付く機会を与えて、仲間を増やしていくという感じかな。まずは問題を可視化していく。

―7月にDJされていた、渋谷駅前での年金をテーマにしたレイヴパーティーもそういう手段のひとつですよね。

Mars89:たとえば、自分がこれはおかしいんじゃないかと思っている事柄に際して、周りが誰も何も言わないからそれを当たり前のことなんだと受け止めざるをえない人がいるとしますよね。彼が街に出たときに、同じような考えを発している人がいたら、良かった、仲間がいると感じると思うんです。もし生活が苦しいと思っている人がいて、「それは自分だけの責任じゃないし、支えてくれる人たちがいるんだよ」ってことをアピールできたら、少しでも生きやすくなるかもしれない。個人が全ての人を直接助けることはできないけど、そういう問題意識を持っている人が世の中にいるということを知るだけで、救われる人がいるはずなんです。

―人々をより生きやすくするために、ダンス・ミュージックの場はどういう役目をはたせると思いますか?

Mars89:それこそクラブカルチャーやアンダーグラウンドカルチャーの成り立ちに立ち返って、外の世界で苦しい思いをしている人がそこに安心を求められるような場所であるべきですよね。セクハラや痴漢、差別がなくて、どんな人がいてもいい。どんな服装でも関係ないし、好きな格好をしていてほしい。別に思想が保守的でもリベラルでもいいんですけど、そこに差別とかを持ち込まない。他人を尊重する。ってのが最低限のルールだと思います。そこをしっかり意識しなおすことによって、クラブカルチャーがただの商業的なものからもうひとつ価値のあるものにまた戻っていけるんじゃないかな。

―シェルターにもなりえるし、生き方の選択肢を増やす場所にもなりえる。

Mars89:そこへ行くことで、翌日からまた生きていこうという活力が生まれる。そういう場所から新しいカルチャーやおもしろいものは生まれてくると思うんです。いまがこんな社会だからこそ、ダンス・ミュージックの原点を理解しなおすべきタイミングなんじゃないかな。もともとダンス・ミュージックってすごく政治的でレベルなもののはずで、自分はそれをただ受け継いでいるという感覚なんです。

Mars89(マーズ・エイティー・ナイン)
東京在住のDJ/コンポーザー。海外シーンとの交流も深く、近作はUKブリストルのレーベルBokeh Versionsからリリース。ファッションショーの楽曲も担当。


『End Of The Death』
Bokeh Versions
発売中



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