kamui、まだ名前のない場所で闘う気高きラッパー

「自分を見つめることはすごく社会的な行為」

-これに関して、「世代の声を代弁する」という意識も多少はありますか?

いや、自分が経験したことからしかものは言えないじゃないですか。それより先のことを言っても説得力がない。例えば「Aida」っていう曲には、自分の政治観をすべて詰め込んだ。あいちトリエンナーレの事件の時も思ったけれど、今は何もかもが極端すぎるなって。そもそも、人間が変わらなければ社会は変わらない。だから、自分を見つめることはすごく社会的な行為なんですよ。だけど、それが全体のことを表現できているかどうかはわからない。



-「Aida」は俺も超名曲だと思っていて。この曲のテーマになっている「間」という言葉は、まさにkamuiさんのラッパーとしての立ち位置をも表しているんじゃないかと。

自分はロック的なアテチュードが好きで、それが単にヒップホップの世界からすれば異端なだけで、自らアウトローになりたいと願ったわけじゃない。でも、どうやたどこにも属していないらしい(笑)。(“Salvage”で共演しているラッパーの)Tohjiは、『I am Special』を聴かせた時に『これはkamuiっていう新しいジャンルだね』って、すごく褒めてくれて。おれもTohjiは新しいジャンルを作ったと思っていたから、その言葉は嬉しかったです。



-そうやって徐々に“間”にいる人たちは増えてきたんじゃないですか?

どうだろ、それは分からないですね。ジャンルレスって聞こえはいいんですけど、ベースとなる音楽の強度が必要だから、俺はもう一度ヒップホップにこだわったんです。それが『I am Special』ということで。

-kamuiさんにとってあの作品はラップ回帰だったんですね。

純粋にやっとスタート地点に立ったなと。それまではダンベルをあげていた時期だったのかもしれない。みんなには悪いけれど、過去の作品は自分ではもう聴かないから。『I am Special』でやろうとしたことは、誰も聴いたことのない何か。声の出し方とか、エフェクトとか、ビートとか、リズムの探求ですよね。ラッパーとしてどこまでいけるのかっていう。あと、あれですね、絶望したっていうのが大きい。『Cramfree.90』は、教会の鐘が鳴る、カラスが鳴いている、そういう死の匂いが漂うイントロで始まって、リスナーにとっては誰かわからない“君”に対して語りかけていく。死んでいった友人を描写しながら、『良い人間でありたい、優しくありたい』という思いに向き合いつつ、ゆとり世代にとっての本当の自由を探し求める。で、最後は「Find Me」っていう一番情けない曲で終わる。名盤じゃないかと(笑)。でも、まあ聴かれない。ダメだ、わかった、おれは日本語をやめる。伝えるメッセージなんてない。そう思って書いたのが、(『I am Special』の2曲めに収録された)「RAFな街」。



-たしかにあのラップはよく聴き取れない……。

YouTubeに何言ってるかわかんないっていうコメントが溢れて(笑)。でも、それでいいんだ、感じてくれと。

-ただ全体として聴くと、シンプルにラップを突き詰めようとした『I am Special』は、コンセプチュアルな前2作よりも一段とポップに開けている印象があります。

それまでは、一人部屋にこもってヘッドフォンで聴く想定しかしてなかった。でも今は、TENG GANG STARRでやっていたことをソロでもやらなきゃいけない。つまり、このアルバムは踊れるんですよね。頭ふってバウンスして嫌なことをぜんぶ忘れられるようなラップをやりたくて。自分の情けない部分を直接的に表現する。満足するほど金はないし、たいした人間でもないし、だから『俺つば吐くクソです』(「Salvage」)ということ。

-じゃあ、このアルバムにおけるメンターは誰でしたか?

自分の中ではオアシスなんですよ。『Supersonic』っていうドキュメンタリーを観てヤラれまして。あの2人、悪童なのに超繊細で、本当にずっと喧嘩してるのに、なんであんなに美しいメロディと歌詞ができるんだっていう。で、それはそれとして、一番衝撃だったのはリアムの歌い方ですね。ライブ中に手を後ろに組んでマイクを見上げるように歌う。すぐに自分にも取り入れました。普段からよく『声が良い』って言われていたんで、今までじゃ地声でやっていたんですけど、より情けなさを出すためにはこの歌い方がいい。それが一番開花しているのが「Credit Girl」ですね。自分にとってすごく良い塩梅で、ラッパーなのにUKロックのような情けなさが表現できました。





kamui(カムイ)
名古屋生まれ。自身はラップ、映像制作に加え、3-i名義でトラックメイクも行う。2019年3月にユニット・TENG GANG STARRの活動を休止後、即座にソロ活動を再開した。


『I am Special』
kamui
発売中

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