kamui、まだ名前のない場所で闘う気高きラッパー

「名古屋は……なぜかメタル聴いてるやつが多かったですね(笑)」

-音楽の話に戻すと、ヒップホップから入って、それからロックも掘っていったんですよね。

そうですね。ヒップホップはノリなんですけど、俺は違う感情表現に興味があったから自然とロックを聴き出した。あと、周りにヒップホップを聴いている人なんていなかったんです。東京では、「弟がトラック・メーカーで〜」みたいな環境があって羨ましかった。名古屋は……なぜかメタル聴いてるやつが多かったですね(笑)。その環境のおかげか、自分は何でも聴ける体になりました。

-そこから自分の音楽はどうやって形作っていったんですか?

レイジ(アゲインスト・ザ・マシーン)の勢い、あの感情表現をどうやったらサンプリング・ベースで出せるかなと試行錯誤していました。だから、その時ちょうど出会ったトラップが衝撃的で。ビルドアップして落とすその瞬間に感情を乗せられるわけじゃないですか。もちろんエミネムとかも感情的なんですけど、彼のエンジニアはギターとかシンセとか生の楽器を入れるんで、そういうことができない俺からしてみれば、トラップが最適な手段に思えた。



-トラップのことはどこで知ったんですか?

VICEのトラップ特集(『noisey ATLANTA』)が衝撃でしたね。インディー時代のミーゴスとかが出ていて、みんな音楽の知識はないのに、とりあえず808のベースを出すっていう。とりあえず低音を出せっていうノリがバカっぽくてよかった。これはパンクだなと。それが(1stアルバムの)『Yandel City』を出した後、2016年あたりの話ですね。その前はフライング・ロータスあたりを聴いていました。



-ではここで、過去の作品を一つ一つ振り返っていきたいと思います。まずは架空の未来都市を舞台にしてSF群像劇を描いた『Yandel City』から。これはビートメイカー・u..とのコラボ作でもありました。

これはヤンデルシティっていう架空の近未来都市を舞台に自分の感情を反映させたアルバム。その下地になっているのは、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』ですね。人間じゃない存在にたって歌うっていうのが衝撃的だった。俺はこの作品で、特定の感情、怒りとか悲しみとかじゃなく、もっと抽象的な感情表現にトライしました。

-アルバムに対するリアクションはどうでしたか?

それがぜんぜん反応がなくて。自分の精神状態もかなり切羽詰まった状態で作っていたし、そもそも最初の段階でペルソナを打ち立てるラッパーなんていないから(笑)。だから、次の『Cramfree.90』では自分の過去、現在、その先についてだけを歌いました。それまで自分の人生に対して嫌気がさしていたんで、いったんそれを肯定しないと先に進めないなと。そういう意味で、『ヒップホップをちゃんとやりたい』と思ったんです。その頃からケンドリック・ラマーに惹かれ始めて、だから『Cramfree.90』は『Section.80』(ケンドリックの1st)のオマージュですよね。彼はクラック・ベイビー世代(親にクラックやコカインの中毒者が多い世代)と一括りにされることへの抵抗をラップしていたんですけど、自分の場合は、ゆとり世代と一括りにされることへの抵抗だった。

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