バトルスが塗り替えた21世紀の音楽シーン、「2人」になったバンドの復活劇

─「バトルスは初期のEP三部作こそベスト」という声は根強いですよね。この時点ですでに、インディ系の音楽ファンからはかなり支持されていたと記憶しています。

天井:「B+T」や「Hi / Lo」などマスロック的な人気曲もあるけど、「UW」みたいな実験的なエレクトロニック・サウンドやドローンだったり、ハード・ミニマル風の「Fantasy」とか、改めて聴くとメチャクチャな(笑)曲もたくさん入ってますよね。前後してリリースされたタイ(タイヨンダイ)の初期のソロ作品ともリンクするような内容で、まだ試行錯誤の状態というか、今のバトルスとは似て非なるアプローチも色々と試されていて。

─なるほど。

天井:「TRAS」と「TRAS2」や「TRAS3」、「IPT2」と「IPT-2」といった曲名からも窺えるように、ひとつのアイデアを元に様々なバリエーションを実践してみる、みたいな習作的な意味合いもあったんじゃないですかね。


2004年に別々のレーベルからリリースされた『Tras』『B EP』『EP C』の3作は、2006年のWarp移籍第1弾となった『EP C / B EP』で一枚に纏められた。


2005年、渋谷O-EASTで開催された来日公演

─そして、バトルスの代表作といえば、2007年の1stアルバム『Mirrored』。

天井:EPからここまでポップに化けるのかと。そこはやっぱりタイの存在が大きいのかな。独特のボーカル・エフェクトやヒューマン・ビートボックスも含めて、彼の個性がうまくマッチしたというか。

─タイの声を積極的に取り込むことで、リスナーの間口が広がった。

天井:メンバーも公言していたように、あくまで楽器的な感覚で扱ってる形ですが、やっぱり大きかったですよね。インストロックというと冗長になりがちだけど、タイの歌/声がフックとして表情やニュアンスをもたらしているというか。あとは何と言っても、「Atlas」の異様なポップさ。

─あのシャッフルビートが始まると、今でもライブで盛り上がりますよね。アルバム全体は改めてどうですか?

天井:EPの頃に比べると、カドが少し取れちゃった感じもしますよね。でも、広く知られる最初のきっかけとしては良かったんじゃないかな。このキャッチーさがバトルスの代名詞になったと思うし、「Tonto」「Snare Hangar」といった曲にはEPのストイックでミニマルな作りが継承されていて、全体としてはバランスが取れてるのかなって。「Atlas」だけ突き抜けてますけど(笑)。





─この年のバトルスは時代の申し子でしたよね。絶対にブレイクしそうな気配があったし、アルバムが出るとたちまち絶賛の嵐で。ここまでの歓迎ぶりも珍しい。

天井:NYの盛り上がりともリンクしていましたよね。タイ自身はブラック・ダイスやギャング・ギャング・ダンスがたむろしていたアンダーグラウンド・シーンとも密接な関係にあって。その一方で、Warpも転換点を迎えていて、!!!然り、マキシモ・パークやグリズリー・ベアといったバンド物を出し始めていた。そんなふうに、インディロックが盛り上がっていた時期に出てきたのは大きかった気がします。バンド物だから、それまでロックを聴いてた人もすんなり入り込めただろうし。

─「踊れるロック」のニーズも満たしていましたよね。ロックファンやクラブ/DJシーンに加えて、レフトフィールド寄りのコアなリスナーや批評家筋にも愛されていて。

天井:それこそ当時、スタジオ・ボイスが「次世代【オルタナティヴ・ミュージック】ランキング100!!」って企画で『Mirrored』を1位に選んだりしてましたよね。あと、当時はバカテク系(笑)のバンドも勢いがあったじゃないですか。ヘラやライトニング・ボルトとか。さらに、マス・ロックの新たな代表格として、テラ・メロスやスリーピング・ピープルなどの活躍も促した。そもそもバトルスをフックアップしたのはCold SweatやDim Makといったその筋のレーベルだったという経緯もありますが、新人バンドなのにバックボーンがしっかりあるし、同時代のシーンとも無数の接点がある。ここまで縦にも横にも繋がりをもつバンドは、当時でも珍しかったんじゃないですか。



─もちろんライブの評判も相変わらずで。この年のフジロックでWHITE STAGEに出演して、期待通りの怪演を見せています。

天井:その2カ月後に開催されたジャパンツアーは軒並み完売で、チケットが売れすぎてダブルヘッダーとかやってましたよね(※)。そんな話、聞いたことなかった。『Mirrored』という作品自体も良かったけど、取り巻く環境も含めていい時代だったなと思います。

※東京は追加公演が完売したため、再追加公演として恵比寿LIQUIDROOMで1日2公演行われた。

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