VHSから未知の世界へ、VIDEOTAPEMUSICが語る「エキゾ」の探求

―VIDEOTAPEMUSICの音楽の重要な要素として、マーティン・デニーやレス・バクスターなどに通じるような、いわゆる「エキゾ」というものがあると思うのですが、そういったものを取り入れようと思ったのは?

V:子供の頃から怪獣映画に出てくる南国の風景とか巨大な昆虫とか、自分の外部にある未知の世界へ興味を持っていたので、そういう感覚が後に聴いたエキゾ的なものと自然に結びついた感じですね。そもそも写真や映像などの記録メディア自体が、自分の環境の外部にあるものを記録して体験する感覚=エキゾ性や「観光」ということを成り立ちとしているということも知って。そのあたりも自分の表現にしっくりきたのかもしれません。

―なるほど。

V:移動と記録メディアの歴史について論じられている、美術史家の伊藤俊治さんによる『ジオラマ論』という本があるんですが、その影響は大きいですね。そこに書かれていることを自分なりに音楽に置き換えることで、エキゾチック・ミュージックの要素を自覚的に取り入れていくようになった感じです。

―近年ではダンスミュージック的な要素も積極的に取り入れていますね。

V:以前は自分の音楽を体を動かしながら聴くものだとは一切思ってなかったんですが、リリースを重ねる中でクラブでのイベントに呼んでもらうことが増えてきて、当初は必要に迫られて取り入れてきた感じなんです(笑)。それまで踊りながら音楽を聴くことの快感もあまりよくわかっていなかったんですが、友だちに連れて行ってもらったりしているうちに徐々にその魅力に惹かれていって。そしてそこで気づいたのが、それまでのあくまでただ見る側としてだけあった「エキゾ」という視点に、新たにダンスミュージック性が加わることで、自分の肉体を通して別の感覚が開けていく、ということだったんです。観光的態度でありながら、一方で身体の参加も伴う感覚……。段々とこれは表現として可能性があるなと思い始めて、積極的にそういった要素を取り入れたのが2015年のアルバム『世界各国の夜』ですね。



―最新作『The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC』は初の全編ゲストボーカル入りのアルバムです。

V:僕自身からは出てこない要素を取り入れてみたかったというのが大きいですね。一方で、こういうと参加してくれた皆さんへ失礼になってしまうんですが(苦笑)、今までサンプリングで作ってきた感覚ともそう大きくは違わない感覚なんです。そもそもサンプリング自体も自分の外側にある要素を取り込む作業ですし、今までもサンプリングソースに引っ張られることで自分では思いもよらない曲ができていくことがほとんどだったので、生身の人間が参加してくれることで自分の音楽が根底から変わったという感覚は無いんです。ですが、歌詞や言葉は皆さんに考えてもらったものだし、やっぱり実際作業を進めていくにあたっては、その過程の中に今までとは違う驚きがたくさんあって面白かったですね。

―歌モノとなったことでポップスとしての強度が全体的にぐんと上がった気がする一方、これまでの作品にあったエキゾ的要素も更にアップデートされているように感じました。今エキゾ的なものって、外部から眺めるだけの観光的な姿勢やテンプレート的な文化解釈など、現在のPC的視点から問題を指摘されることもあると思うんです。そういったことについてはどう思いますか?

V:そういった問題意識は常あります。今回生身のミュージシャン達と制作したという部分もまさにそこと繋がっていると思っています。これまで台湾や韓国の風景をエキゾチシズムの対象としてしか考えられていなかったんだとしたら、今度は実際にその国々のミュージシャンと一緒に作ることで、様々なディスカッションが生まれてくる。ただ観光的な視点を端から排除するだけでなく、ちゃんと対話をして折衷するところを探っていく作業というか。なおかつそれを、外から見るだけじゃなく、自分が実際に各地に足を運びながら考えていく。そのことで自分が親しんできたエキゾ的なものを現在の倫理観にあわせてアップデートできないかというのを日々考えています。

―ライブパフォーマンスを行う上でも、「現場に足を運ぶ」という意識がある?

V:はい。ライブを行うとき、自分自身の身体を移動して現場に入っていくというのは、旧来のエキゾ的なものから一歩先に行くための重要なポイントだと思っています。国内でもそうですが、海外へライブをしに行くと、逆に自分が観光の対象として見られる立場になる。そういう関係性の置き換えを通して自らのエキゾ的な視点に対して自分なりの責任を取るというか……いかにして対等な視点を見出すことができるかを探っている感じですね。

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