映画『ジョーカー』、この大ヒット作が目指すものは一体何なのか?

『ジョーカー』で主役を演じたホアキン・フェニックス(Photo by Niko TaverniseI)

映画『ジョーカー』で、ホアキン・フェニックスは私たちに現代の冷血なジョーカーを見せてくれた。しかし、この大ヒット作が目指すものはいったい何だろうか。

【注:文中にネタバレを想起させる箇所が登場します】

「俺の方がおかしいのか、それとも世間はもっと酷いのか?」と、病に苦しむ雇われピエロのアーサー・フレックは担当のケースワーカーに素直な疑問をぶつける。彼の暮らす都会の街は荒れ果て、通りや路地裏にはゴミがあふれていた。ニュースで流れているのは「スーパーラット」の大量発生や凶悪犯罪の話ばかり。ピエロの格好をして閉店セールの宣伝看板を掲げていても、不良少年に殴りつけられる始末。いつの日か、大雨が街のクズどもを洗い流してくれるだろう。しかし今のフレックは、悪夢のような毎日を何とか乗り切っていくしかない。彼にあるのは7種類の錠剤だけ。病気がちな彼は、間の悪い時に笑ってしまうのを止められないという病気も患っていた。

そんな彼にも喜劇的要素はある。アーサーの母親は息子に対し、あなたはこの忌まわしい世界の人々を笑顔にするために生まれてきたのだと言い聞かせる。やがて彼は、スタンドアップコメディアンになることを決意する。彼に必要なのは、少しでも正気を保つことと、少しばかりのジョークだ。ハハハ…

監督のトッド・フィリップス自らが「狂気の作品」と表現する映画『ジョーカー』は、コミックの有名キャラクターを涙するピエロとして映像化した。ニヤリと笑う“スーパーヴィラン”を、神の孤独な愚か者として描きたかったのだ。凶暴な路上強盗を働いていた古い時代のジョーカーや、カオスを引き起こす悪の黒幕として描かれた『ダークナイト』時代のジョーカーは、忘れるべきだ。スクリーンの中の時代風景は古臭いニュー・ハリウッド・グランジ・テーマパークのようだが、アーサー・フレックは、混乱した現代の狂ったアンチヒーローだ。スクリーンに描かれるゴッサム・シティは、大統領が大都市を見捨てた時代の街中落書きだらけのホラー・シティなのだ。(ちなみに物語の設定は1981年で、映画では有名なバットマン神話にまつわる内輪のジョークが見られる。) そして全ての中心にいるのは、1970年代のスコセッシ作品を真似た悲劇の主人公。彼は、愛想と叫び声とクスクス笑いで名声を称える制御不能な社会の混乱によって追い詰められる。いいかげんにしろ、とそんな状況に耐えかねたピエロがここにいる。

Translated by Smokva Tokyo

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