ハリー・スタイルズ密着取材「心の旅で見つけたもの」

ハリー・スタイルズ(Photograph by Ryan McGinley for Rolling Stone)



「ジョニ・ミッチェルとヴァン・モリスン、この2人が僕の憧れの存在だ」

スタジオでは、ハリーがアルバム制作の傍ら、スマホで昔のボウイの映像を見ていた――筆者も見たことのない90年代後半のTVインタビューだ。彼は映像を流しながら、それに合わせて引用した――一字一句暗記してしまっているのだ。「絶対に大衆にむかって演奏するな」と、ボウイが助言する。「絶対に同じ業界の人間のために仕事をするな」。ハリーにとっては胸にひびく激励の言葉――決して安全パイに走ってはいけない、と改めて教えてくれる言葉だ。ボウイも言うように、「自分が働いている業界で安心できるようなら、正しい方向に向かっていないということ。常に、ここまでは大丈夫、と思える領域のもう少し先へ行かないと。自分のテリトリーから少し外れるんだ。底に足がつかないように感じたら、正しい方向で、なにかエキサイティングなことをしようとしているってことさ」

彼はジョニ・ミッチェルと彼女の1971年の名盤『ブルー』に傾倒し、さらに探求していった。「大きなジョニの穴にはまっちゃったんだ」と本人。「『ブルー』を通しで流しながら、ダルシマー(打弦楽器)の音だけずっと聴いていた。それから、60年代にジョニのダルシマーを組み立てた女性を探し出した」。彼は、その女性がカルヴァーシティに住んでいることを突き止めた。「彼女は『どうぞいらっしゃい』って言ってくれた」とハルも言う。「それで彼女の家に行って、ハリーが『そもそも、ダルシマーってどう弾くんですか?』と訊いた。彼女は俺たちにレッスンしてくれたよ。それからボンゴを取り出して、3匹のでかいチェシャ猫よろしくニヤニヤしながらセッションした」 ハリーがニューアルバムの中で演奏しているダルシマーは、彼女が組み立てたものだ。「ジョニ・ミッチェルとヴァン・モリスン、この2人が僕の憧れの存在だ」と彼は言う。「作曲という点では、『ブルー』と『アストラル・ウィークス』は傑作だね。メロディの部分でも独自の世界を極めている」





子供のころ『パルプ・フィクション』に圧倒されてからずっと、ハリーはおたく少年的な熱意でのめりこむタイプだった。「最初にあの映画を見たとき、僕は相当幼かったんじゃないかな」と彼も認める。「でも13歳のとき、新聞配達で貯めたお金で“Big Motherfucker”って書かれた財布を買ったんだ。イギリスの田舎町であんな財布を持ってるなんて、アホな白人のガキンチョだよね」。日本に滞在中は、ポール・マッカートニー&ウィングスに、それも『ロンドン・タウン』と『バック・トゥ・ジ・エッグ』にのめりこんだ。「東京ではアナログバーに入り浸ってたんだけど、バーテンダーがウィングスのレコードを持ってなくてね。それで『バック・トゥ・ジ・エッグ』を持参して行った。『アロウ・スルー・ミー』、あの曲は東京にいたとき毎日欠かさず聴いていたよ」

肩の力が抜けたのは、瞑想のおかげだと彼は言う。「僕は相当疑り深いタイプなんだ」と本人。「だけど、瞑想のおかげで将来のことも、過去のことも前より悩まなくなったと思う。前よりもっとたくさんのことを取り入れている気がする――いつも忙しくしていたせいで見過ごしていたこととかね。友人に心を開いて打ち明ける、というのもその一つだ。『自分はヘマをした。そのせいでこんな気持ちになった。それでさんざん泣いた』と、かしこまって言うのはそうそう簡単なことじゃない。でも、自分を弱い立場に身を置くことで自分らしくなった瞬間、このうえない開放感を感じられる。そんなとき、『ああ、ちくしょう、生きてるぜ』って気持ちになるんだ」

Translated by Akiko Kato

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