ハリー・スタイルズ密着取材「心の旅で見つけたもの」

ハリーがスタジオワークを好きな理由

向かったのはマリブのシャングリラスタジオ。1970年代にザ・バンドが作ったスタジオで、現在はリック・ルービンが所有している。ここでハリーは、間もなくリリースされる最新アルバムの一部をレコーディングした。中へ入るやハリーは思い出し笑いを浮かべた。「そうそう、ここでしこたまマッシュルームをやったんだ」

トリップ体験が彼の創作活動で重要な位置を占めるようになった。「マッシュルームをやって、芝生に寝転がって、日向ぼっこしながらポール・マッカートニーの『ラム』をよく聴いていたよ。スピーカーを庭の方に向けてね」。ミキサーの横にあるスタジオの冷蔵庫に、チョコレートタイプのマッシュルームが大事にしまってあった。「ミキサーの回る音を聴いて、『よし、今朝はみんなで10時からフローズンマルガリータを飲もうぜ』って言い出したり」。ハリーが部屋の隅を指さす。「みんなでマッシュルームをやってたとき、僕はここに突っ立って舌の先を噛んじゃってさ。それで、口から血をだらだら流しながらなんとか歌ったよ。この場所にはいい思い出がいっぱいだ」



単なるロックスターのどんちゃん騒ぎではない――彼の新しい心境を象徴している。彼がなぜスタジオワークをこれほど好きなのか、なんとなくわかる気がする。何年もワン・ダイレクションのアルバムをツアー先で作ってきた後、ようやく時間に余裕ができ、こうしたバカ騒ぎを満喫できるようになったのだ。「マリブには6週間いたけど、街に出たことは一度もなかったな」と彼は言う。「みんな犬や子供を連れてきていた。休憩がてらコーンホール大会(訳注:袋を投げて、穴の中に入れる玉入れのような競技)もやったよ。家族団らんさ!」。同時に、作品のために自ら進んで血を流した場所でもある。「『マッシュルームと血』。ほら、アルバム・タイトルができたよ」


Photograph by Ryan McGinley for Rolling Stone

エンジニアの何人かがやってきて、おしゃべりに加わった。ハリーは太平洋に面した窓を示した。時折ここで素っ裸になってバカ騒ぎがあったのかもしれない。パンツが見当たらない、なんてことも何度かあったのかもしれない。「ある晩みんなでちょっと騒いでたら、ビーチに行こうぜってことになってね。そこで私物を全部なくしたんだ。全部だよ。服も全部。財布もね。そしたら1カ月後ぐらいに、誰かが僕の財布を見つけて郵送してくれたんだ。しかも匿名で。きっと砂の中にでも埋もれてたんだろうな。でも何が悲しいって、気に入ってた辛子色のコーデュロイのフレアは見つからなかった」。しばし、コーデュロイのフレアのために黙祷が捧げられた。

この日スタジオでレコーディングしていたのは自称“世界最強のボーイズバンド”ことブロックハンプトン。ハリーはブロックハンプトンのメンバー全員に挨拶したが、何しろ大所帯なのでかなり時間がかかった。「俺たちいつも一緒なんだ」と、そのうちの一人が庭でハリーに言った。「1日中、毎日ずっと顔を合わせてるんだよ」。その後一瞬間をおいて、「どんな感じか分かるだろ」

ハリーは乾いた笑いを浮かべた。「ああ、よーくわかるよ」







ワン・ダイレクションは『ミッドナイト・メモリーズ』『Four/ フォー』『メイド・イン・ザ・A.M.』と、今世紀最大かつ最高のポップアルバムを3枚立て続けにリリースした。だがいずれもツアー中に制作したもので、1日休みが取れるときに近くのスタジオに駆け込んで作った。1Dは音楽的な性格がそれぞれ異なるユニークな5人組だった。ハリー、ナイル・ホーラン、ルイ・トムリンソン、ゼイン・マリク、リアム・ペイン。だが、そのような生活は長続きしなかった。ツアー半ば、香港の公演直後にマリクが脱退。バンドは2015年8月に活動中止を発表した。

Translated by Akiko Kato

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