ホット・チップのアレクシス、全アルバムとキャリア20年を本音で語る

7.『A Bath Full of Ecstasy』(2019年)

Hot Chip 『A Bathfull of Ecstasy』


─最新作はこれまでのアルバムと比べて、どこが同じで、どこが違うと思いますか?

アレクシス:制作プロセスそのものは、従来のホット・チップと一緒だね。デモを作る時点からそう。でも、僕らは最終的に、もっと的確な場所へと向かうための曲を作ることができた。これまでと違う点は、僕らの音楽に新たな要素を加えるため、ロデイド・マクドナルドとフィリップ・ズダールという2人のプロデューサーに初めて依頼して、異なるセッションを個別に行ったこと。それぞれのセッションを通じて、これまでとは一味違う音楽を作ることができたと思う。外部の意見を積極的に受け入れたのもこれまでと違うし、音楽制作の構造にも影響を与えたんじゃないかな。他者によって僕らの音楽をガイドしてもらった感じだね。

あと、収録曲以外にもたくさん曲を作ったんだ。たしか25曲。そこからベストなものだけ厳選していった。ギリギリまで絞り込んで、最終的に9曲にしたんだ。だからこそ、最初から最後までムードを一貫させることができた。そういう作品にすることができたのも、2人のプロデューサーを迎えたおかげだね。多様なムードが同居しているようなアルバム――『Made in the Dark』が思い出されるけど、今回はそうではなく、一つのエッセンスでまとめられたのもよかったと思う。これまでと同じ点を再び挙げると、センチメンタルでメランコリック、そしてエッジーな部分は変わっていない。決してスローになったりせず、最初から最後までグルーヴが感じられるのもいいと思うよ。





─ファミコンの横スクロールゲームをモチーフにした、タイトル曲「Bath Full of Ecstasy」のMVも話題になってますね。

アレクシス:MVを監督したオリヴァー・ペインは、過去2作に続いてアートワークを担当したニック・レルフのコラボ作家で、東京にギャラリーがあって何度も個展を開いているんだ。彼はビデオゲーム・カルチャーに夢中で、ホット・チップの大ファンでもある。そこで僕がMVの監督を頼んだら、オリヴァーは「架空のゲーム」という企画を提案してきた。しかも日本製のね。彼はトリビュートの一環で、ファミコンのコンソール、パッケージや映像のレプリカを作ろうとした。この曲の歌詞対訳を少し載せることより、ビデオゲームのフィーリングや、マジカルな世界観を視覚化しようとしたんだ。

「ホット・チップをバンドではなく、シリーズ物のゲームとして捉えてみるのはどう? 『Bath Full of Ecstasy』はそのゲームの一つだよ」と、オリヴァーは言ってきた。それで僕らは今回のアルバムやこの曲、そしてバンドについて再考してみたんだ。ゲームのなかで使う言語を考えるような感覚でね。そしたら彼はオタク(nerdy)モードになって、ビデオ中にイースターエッグ(隠しメッセージ)をたくさん仕掛けようとしだした。ここでは彼自身のヴィジュアル・アートワーク、ケイティ・ペリーとのコラボ(※)、僕らの過去のアルバムだったり、ホット・チップを理解することがシークレットコードの鍵になっている。オリヴァーは僕がモスバーガー大好きなの知っているから、僕がモスを食べているシーンも隠しメッセージの一つにねじ込んであるよ(笑)。

※アレクシスとジョーは、ケイティの2017年作『Witness』に参加。『Bath Full of〜』収録の「Spell」は、もともとケイティ・ペリーのために制作されたトラックだった。






─“nerdy”という言葉が出てきましたが、自分たちが「ナード」と呼ばれることについてはどう受け止めてきましたか?

アレクシス:僕が子供の頃、学校で「ナード」と呼ばれたことはなかったよ。それは今でも覚えている。当時、ナードっていうのは失礼な意味合いを持っていたし、学校で嫌がらせをするときに使うフレーズだった。ナードって呼ばれるようになったのはバンドを始めてからだね。変わった衣装を着たり、眼鏡をかけたりしているからかな。昔の僕は、そう言われるといつもイラッとしていた。でも、今は大丈夫。

バンドのなかでは、その言葉は違う意図で使われている。モジュラー・シンセサイザーにハマっている人もいれば、レトロなビデオゲームで遊ぶのが好きな人もいる。それってかなりオタク的(nerdy)だよね。僕はレコードと詩のオタクだよ。でも、それ以外は特に詳しくない。オタクっぽく見えるから詳しいと思われてるみたいだけど、科学や数学、コンピューターや電化製品には詳しくないんだ。

─キャリアを振り返って、どんなことを思います?

アレクシス:こんなに多くのアルバムをリリースできてラッキーだと思う。活動をはじめた頃は、どれだけキャリアを続けられるかなんて考えもしなかった。ただ、希望と野心を抱きながら、リスナーにも誇りに思ってもらえるようなアルバムを作ろうとしてきた。そして今、7枚目のアルバムを仕上げられたのは光栄だし、こうして日本や海外を旅しながら、ホット・チップの音楽を求めて観客が集まってくれるのは素晴らしいことだよ。あとは僕にとって、ソロとしての活動も大きな意味を持っている。とてもハッピーだね。




2019年10月の東京公演にて(Photo by Masanori Naruse)




<リリース情報>

Hot Chip 『A Bathfull of Ecstasy』

Hot Chip
『A Bathfull of Ecstasy』
発売中
レーベル:Hot Chip / Beat Records
品番:BRC-603
価格:¥2,400+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説・歌詞対訳付き

=収録曲=
01. Contact
02. UFOF
03. Cattails
04. From
05. Open Desert
06. Orange
07. Century
08. Strange
09. Betsy
10. Terminal Paradise
11. Jenni
12. Magic Dealer

Translated by Aimie Fujiki, Aya Miyahara

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