『誰も知らない』から『真実』まで、是枝裕和監督が見てきた「女優」のあり方

ー娘のリュミール役のジュリエット・ビノシュさんはいかがでした?

是枝:とても面白かったです。例えば最初のシーンで実家に着いた時、ふと家を見上げた3秒ぐらいの間の表情の変化で、「あ、この人ここであんまり幸せじゃなかったな」とか「今、家で暮らした18年が蘇ってるな」っていうのが見えて「すごいな」と思いました、セットで撮影中の母親のお芝居を見てる時も、彼女の目線だけで、今彼女が見ているのはフィクションの芝居じゃなく、そこに自分の子供時代を重ねていることがわかる。シーン全体を感情で支配するっていうのかな。黙って何かを見ている姿がいちばん強烈で印象的なんです。だから、彼女が黙って見ているシーンを増やしました。


リュミール役を演じるジュリエット・ビノシュ photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3


photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

ー演じている時の集中力がすごいですよね。役作りのプランをしっかり立てて撮影に挑むタイプだと思いますが、監督はいつも直前にセリフを変えるじゃないですか。そこは大丈夫でした?

是枝:やめてくれって言われました(笑)。せめて、変えるなら2週間前にしてくれって。役を掴むためにいろんなことをする人だから。例えば、自分の子供時代まで遡って、その時の傷を引っぱり出して、それを役に「移植する」って言ってましたね。役作りのためには、そういう心理的なメソッドも使うって。

ーそれは2週間かかりますね。

是枝:でも、こっちは(直前でセリフを変える演出を)やめられなくて、彼女は途中から諦めてました。ただ、脚本を書き始める前から彼女とはいろいろ話をしていて、僕が何をやりたいのか、彼女はちゃんと知っていたので大丈夫だったんだと思います。


Photo by Hana Yamamoto

ードヌーヴとビノシュは全然違うタイプの女優なんですね。

是枝:真逆でしたね。

ーそんな二人が母娘を演じるのが面白いです。二人がぶつかるシーンとか、日本とは違う親子関係のリアルさがあって。

是枝:日本だったら、多分ぶつかる前にそらしますね。フランスの人たちを見てると「そこまでぶつからなくても……」っていうぐらいぶつかる。だから、衝突させたほうが人間関係としてはリアルだろうと思ったので、日本で書くよりは正面からぶつけてるんですよ。

ー監督から見て、母と娘の関係の面白さはどんなところですか。

是枝:親子によって関係は違うから一概には言えないけど、友人になったりライバルになったりするところかな。母と息子って、もっとべったりしているし、父と息子はもう少し距離ができる。ビノシュさんもドヌーヴさんも娘がいるから、それぞれの娘との関係も参考にさせてもらいました。

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