モータウンのレジェンドを描いたミュージカルが「社会的」な意味を帯びた理由

変わりつつある世界と変わらないテンプテーションズの存在感

スモーキー・ロビンソンとロナルド・ホワイトによる優しいラブソング「Don’t Look Back」もミュージカルで新たな意味をもって表現されている。この曲が演奏される中、アメリカ南部をツアーしているときに直面した人種差別について語られるのだ。「アラバマ辺りで人種差別者がツアーバスに向かって発砲してきたシーンは、彼らに取って白人の観客とはどういう存在であるかを如実に物語っている」とライターのナヴィーン・クマールは情報サイトTowlerroadに記した。次に続く哀愁漂う一曲「I Wish It Would Rain」では、役者たちの後ろにあるスクリーンにマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの写真と、彼の暗殺を報じる見出しが映し出される。


Photo by Matthew Murphy

終盤には、たとえその曲が元々持っていた意味とは違っていても、このグループをその時代の社会的なメッセージから切り離すことはできなくなっている。彼らの音楽はタイムカプセルのようなもので、だからこそその社会派な要素が垣間見える瞬間——キング牧師の存在やベトナム戦争が始まるとき——にグループを知っていた人も知らなかった人も、彼らと思いを共感することができるのだ。

観客がこの楽曲たちに、そしてこのミュージカル全体にここまで深い意味を見出しているのは社会の変化、対立、経済的不平等といったテーマが、これらの楽曲たちが生まれたときと同じぐらい、今日の社会に当てはまるからだ。『Ain’t Too Proud』は「我々が今生きている時代を見つめ直すレンズになって、何がどれだけ変化したか、あるいはしなかったかを気づかせてくれます」と演出のマカヌフはローリングストーン誌に語る。

約60年間、一つの型に嵌まるまいと活動してきたテンプテーションズは、今や他に類を見ないレベルの存在感を放っている。歌えて、踊れて、そして間違いなく愛を語ることはできるが——『Ain’t Too Proud』でさらに人々を奮い立たせ、導き、そして変化を訴える声になれることも証明してみせた。

Translated by Mika Uchibori

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