タル・ウィルケンフェルドが語る音楽人生、レジェンドとの共演秘話、トゥールからの影響

ー音楽を聴き始めた頃、トゥールやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを愛聴していたそうですが、現在でもヘヴィなロックを聴くことはありますか?

タル:レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの『イーヴィル・エンパイア』は今でも聴くし、本当に凄いアルバムだと思う。トゥールからも影響を受けた。アメリカに来て、最初にライブを見たのがトゥールだったわ。ドラマーのダニー・キャリーとは友達で、パーティーとかにも顔を出してくれる。彼らの新しいアルバム(『フィアー・イノキュラム』)はまだ聴いていないのよ。早く時間を見つけて聴きたいんだけどね。トゥールは妥協のない音楽をやって、それでアリーナ規模の会場でライブをやる支持を得ているのは素晴らしいと思う。ダニーもそうだけど、トゥールには奇妙なユーモアがあるのよね。それが面白いんだけど(笑)。

ーあなたは90年代の音楽を聴いて育って、プロとしては60年代あるいは70年代から活動するアーティストと多く共演していますが、自分のライブでは80年代イギリスを代表するバンドのひとつ、ザ・スミスの「ハウ・スーン・イズ・ナウ?」をプレイしているというのが興味深いですね。

タル:ザ・スミスのことはポールとジェレミーのステイシー兄弟から教えてもらったんだっけな? 短期間のあいだにあまりに多くの音楽に晒されたから、覚えていないのよ。「ハウ・スーン・イズ・ナウ?」をカバーしたのは、歌詞が自分と関連づけられるものだったからだった。ステージに上がったり、人前に出る仕事をしていると、周囲の人たちに違った風に見られる。でも私だって普通の人間なのよ。“私は人間、どうしても愛されたい/他のみんなのように”という一節がハートを直撃したわ。

ー「ハウ・スーン・イズ・ナウ?」の歌詞は、ゲイの主人公がゲイ・バーに行っても誰からもナンパされず、一人寂しく帰宅して泣く……というものですよね?

タル:その部分は私の日常生活とは少し異なっているけど、周囲に溶け込むことが出来ず孤立する経験は誰にでもあると思うし、共感をおぼえるわ。私自身もソングライターとして、聴く人が自分の人生と関連づけられる歌詞を書こうとしている。


Photo by Hana Yamamoto

ー“普段あまり音楽というものを聴かない”とのことですが、これまでどんな音楽遍歴を経てきたのですか?

タル:私はオーストラリアのシドニーで育ったけど、親が厳しくて、テレビを見るのもラジオを聴くのも禁止されていた。子供の頃はジミ・ヘンドリックスとレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、ハービー・ハンコックの3枚しかCDを持っていなかったわ。それでも自分はアートの道に進みたかったし、1人でアメリカに向かうことにした。一気に音楽の絨毯爆撃を受けたわ。ジャズにハマったからニューヨークに来て、ビバップもフュージョンも聴いてみた。その時点ではロックのことはまったく知らなかった。だからオールマン・ブラザーズ・バンドと一緒にやるようになったとき、彼らが何者だかも知らなかったし、ジェフ・ベックも誰だかも判らなかった(苦笑)。

ーそれなのにオーストラリアから単身アメリカに渡るというのも凄いですね。ご両親から反対はありませんでしたか?

タル:心配はしていたけど、反対はしなかったわ。うちの祖父母は現代正統派ユダヤ教を信奉していて、保守的な家庭だったし、両親も私を大学に行かせて、医者か弁護士にしたかったと思う。ミュージシャンは不安定な職業だし、心配だったと思うけど、私は自分の信じる方向に進むしかなかった。私が自分の居場所を見つけて、生活しているのを見て喜んでいるし、応援してくれるわ。




ーアメリカに来て大物ミュージシャンと共演したりして、緊張はしませんでしたか?

タル:あまり緊張はしないわね。そもそも大物ミュージシャンだと知らなかったりするから(笑)。あるときマディソン・スクエア・ガーデンでジェフ・ベックと一緒にプレイして、バックステージで知らない人に「良いプレイだね!」と声をかけられた。「どうも有り難う! あなたのお名前は?」って訊いたら「ミックだよ」って。その場にいた友達がみんな笑っているから「どうしたの?」と言ったら、「ローリング・ストーンズのミック・ジャガーだよ」だって。その後、また知らないおじさんが「やあ! 僕、ブルースっていうんだ」と話しかけてきたから「こんにちは」と握手したら、それがブルース・スプリングスティーンだった。ジャクソン・ブラウンと初めて会ったのもその日で、友達になって、ベンモントのことを紹介してもらったわ。彼らとはボブ・ディランの「ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」のカバーをレコーディングしたけど、その曲も実は知らなかった。

ー……それも凄いですね。

タル:ボブ・ディランの曲で知っていたのは「見張り塔からずっと」だけだった。ジミ・ヘンドリックスがやっていたからね。実際のところ、みんなそれを面白がっていたんじゃないかな。彼らの常識だと当然知っていることを、私は知らないんだからね。「ちょっと来い!」ってCDショップのアメーバ・レコーズに連れていかれて、いろいろ買ってくれたわ(笑)。いろんなアーティストの曲をプレイするのは楽しいけど、単に過去を模倣するのではなく、自分の直感に基づいてプレイするようにしているわ。

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