タル・ウィルケンフェルドが語る音楽人生、レジェンドとの共演秘話、トゥールからの影響

ージャクソン・ブラウンが“エグゼクティブ・プロデューサー”としてクレジットされていますが、彼の役割はどのようなものでしたか?

タル:ジャクソンは『ラヴ・リメインズ』の初期段階から関わっていたわ。父親がジャクソンの音楽を好きだと言っていたから、名前は知っていた。曲は聴いたことがなかったけど(笑)。でも彼と知り合って、音楽・歌詞の両面で多大な影響を受けたわ。彼の役割は“コンサルタント”に近いものだった。新鮮な耳で曲を聴いてくれたし、いろいろ助言してくれたりね。彼はあまり具体的に「ここをこうした方が良い」とは言わない。ちょっとしたヒントは出してくれるけど、実際どうするべきかは、自分で発見しなければならないのよ。日々の作業を一緒にやったプロデューサーはポール・ステイシーだった。



ーポール・ステイシーや『ラヴ・リメインズ』のレコーディング・メンバーは、どのようにして集めたのですか?

タル:集めたというより、自然に集まった感じね。『ラヴ・リメインズ』を作ることが出来たのは、スシのおかげなのよ。スシに感謝しなきゃね(笑)! ベンモント・テンチ(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのキーボード奏者)を紹介してくれたのはジャクソンだった。2013年のことで、ロサンゼルスでお気に入りのスシ・バーにベンモントと行ったのよ。そのときベンモントが「友達のジェレミー・ステイシーも呼んでいい?」って言ってきた。そしたらジェレミーも「双子の兄弟のポールも呼んでいい?」と言ってきたわ。4人でスシを食べた後、私の車のカーステレオで新曲のデモを聴いてもらった。みんな気に入ってくれたんで、リハーサル・ルームを押さえて、一緒にやってみることにしたわ。ポールがエンジニアとプロデュースをして、私がバリトン・ギターを弾いて、ジェレミーがドラムスって感じでね。そのときベンモントはスケジュールの関係で来れなかった。ジャムをやって、このラインアップでアルバムを作りたい!と思ったことで、それから数週間をかけて数曲を書いてみた。そうしてある日、またベンモントと同じスシ・バーに行ったら、隣のテーブルにザック・レイがいた。彼とも友達になって、アルバムでキーボードを弾いてもらうことになったわ。だから同じスシ・バーでバンドが結成されたのよ(笑)。

ーポールとジェレミーのステイシー兄弟との作業はどのようなものでしたか?

タル:彼らはまったく違っているけど、共通点も多くて、スタジオで会話しているのを見ていて飽きなかったわ。よくスタジオで口論していたけど、それは兄弟だからで、2人とも多彩でどんな音楽にも対応出来る素晴らしいミュージシャンよ。ポールはナチュラルなサウンドを志向して、オーバーダビングは最小限に、ほぼスタジオ・ライブ形式で録ってくれた。今の時代、幾らでも手直しを出来るけど、ポールはミスがあっても「それが人間らしさなんだ」と、そのままにしていたわ。


Photo by Hana Yamamoto

ー『ラヴ・リメインズ』をレコーディングしたのはいつですか?

タル:「コーナー・ペインター」は2013年、他の曲は2014年に録った。それに2015年、ストリングスや管楽器を入れて、ミックスしたわ。ほぼ完成したトラックをピート・タウンゼントに聴いてもらって、それでザ・フーのオープニング・アクトとして2016年のツアーに参加することになった。でもその時期、短期間のうちに尊敬する友人が相次いで亡くなったのよ。プリンス、レナード・コーエン、アラン・ホールズワース、トム・ペティ……すごく喪失感のある時期だった。私自身の“別れ”というものに対する考えが変わったと思う。それで完成したのが『ラヴ・リメインズ』だった。このタイトルはかなり前に考えたもので、“愛は消えない”というのと“愛の亡骸”というダブル・ミーニングなのよ。大勢の友人や知人を失ったことで、さらに深い意味を持つタイトルになったと思う。

ートム・ペティやアラン・ホールズワースとは親しかったのですか?

タル:すごく親しかったわけではないけど、ソングライティングについて話したり、「今度、一緒にジャムをやろう」と言ってくれた。トムのホーム・スタジオで曲作りをする話もあったけど、実現しなかった。アランともいつか一緒に何かやってみようと話していた。彼がアルコールの問題を抱えていることは知っていたけど、私に対してはとても紳士的だったし、良い思い出しかないわ。


タルのキャリアを振り返るドキュメンタリー動画(英語)には、ジェフ・ベック、ドン・ウォズ、ジャクソン・ブラウン、トッド・ラングレン、ピート・タウンゼントなど錚々たる面々が登場。

ーアルバム収録曲の「ハード・トゥ・ビー・アローン」はジミ・ヘンドリックスやドアーズなどの60年代のダークなサイケデリアを彷彿とさせますね。

タル:うん、音楽を聴くようになってからずっとジミ・ヘンドリックスは好きだったし、影響を受けたと思う。ドアーズはあまりよく知らないし、あまり影響はないんじゃないかな。「ハード・トゥ・ビー・アローン」はアルバムで最初の方に書いた曲で、孤立することで人間が感じる痛みと寂しさを歌っている。大勢の人がいる部屋でも、孤独を感じることがあるわよね。このタイトルも“一人でいることは辛い”というのと、“一人になることは難しい”というダブル・ミーニングなのよ。

ーダブル・ミーニングや言葉遊びがお好きなのですね。

タル:そうね、普段あまり音楽というものを聴かないし、それよりもコメディのスポークン・ワードを聴くことが多い。デイヴ・シャペルは“コメディ界のマイルス・デイヴィス”的な存在よ。ビル・バーが“コメディ界のミック・ジャガー”かな。だから言葉の使い方に興味を持つようになったのかも知れない。それに普段は哲学や神経科学の講義のトラックを聴いたりしているわ。時間に余裕があるときは、いろんなことを学びたい。

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