クイーン『オペラ座の夜』を演劇と融合させた野田秀樹のイマジネーション

『オペラ座の夜』と『ロミオとジュリエット』の共通点

再びそもそも論だが、何故、野田が『オペラ座の夜』から『ロミオとジュリエット』をベースにした物語を想像させたのか? この辺はアルバム1曲目の「デス・オン・トゥー・レッグス」が野田のイマジネーションを掻き立てたはずだ。

この曲にはクイーンを巡るあるエピソードが隠されている。曲のタイトルを直訳すると“二本足で立つ死神”で“生きてる死神”ということになる。ちなみに、この曲には副題「…に捧ぐ」とあり、この「…」に当たる人物が〝生きてる死神〟であり、かつてのクイーンのマネージメント会社・トライデント者の社長、ノーマン・シェフィールド氏を指している。

このノーマン氏とクイーンは契約を巡り、泥沼の憎しみ合いを行った。そしてそのノーマン氏のことを謡ったこの歌に関して、フレディは「自分が書いた中で最も悪意に満ちた作品。ブライアンも演奏するのを嫌がった」というエピソードを披露している。

ノーマン氏への恩讐が詰まったこの曲が、憎しみ合う両家が物語のベースにある『ロミオとジュリエット』を呼び起こさせ、さらに『Q』における断ち切れない恩讐連鎖を醸し出すのに一役買っていると想像するのはあながち間違いではないと思う。

『ロミオとジュリエット』がベースになったとなれば、『Q』も源の愁里愛(じゅりえ)と平の瑯壬生(ろうみお)の恋の運命がどうなって行くのかにハラハラされながら進行して行くわけだが、恋と言えば、『オペラ座の夜』には究極のラブソング「ラブ・オブ・マイ・ライフ」が存在する。この曲が流れる恋のシーンはなんとも甘く切ない。

それだけはない。『Q』は、途中休憩を挟み一幕と二幕からなるが、恋愛がメインテーマの一幕から、二幕は思わぬ展開をする。大いなるネタバレになるので、二幕のテーマは書かないが、二幕の大きなテーマは「預言者の唄」からのインスパイアのような気がする。『Q』のストーリーを書けない分、この「預言者の唄」について書く。

そもそも預言者とは、神の信託を授かる者で、『Q』の中では橋本さとしが演じる法王が二幕では重要な役割を果たす。そして、「預言者の唄」の中では信託の内容が歌詞となっているが、『Q』の二幕はその歌詞と重なる部分が多い。この曲はブライアン・メイが十二指腸潰瘍で入院していた時に見た大洪水の夢がベースにあるという。ブライアンは「人間が復讐されているような夢を見た。洪水のような状態で、人間は償いのためにすべてやり直すことになった」とこの曲について語っている。この何かを暗示しているようなブライアンのコメントは、そのまま『Q』の意外な、そして野田らしい結末を暗示しているようでもある。

それ以外にもクイーンの代表曲であり、誰もが知っている「ボヘミアン・ラプソディ」も過不足なく使われているのが印象的だった。具体的に書くと「ボヘミアン・ラプソディ」の持つドラマチックさが舞台を盛り上げるだけではなく、歌詞に出てくる“銃の引きがねを弾くと そいつは死んだ 俺は台無しにしてしまった…”が、物語の中でも踏襲され、物語のトリガーになっている。

もちろん、ここに書いた以外にもアルバム『オペラ座の夜』の収録されている曲は全て『Q』で使用されているので、余裕のある方は、アルバム『オペラ座の夜』を事前に聴いておくと、『Q』を倍楽しめるかと思う。

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