田中宗一郎と宇野維正が議論「チャイルディッシュ・ガンビーノの『グアヴァ・アイランド』は何を意味するのか?」

チャイルディッシュ・ガンビーノ(Courtesy of Sony Music Japan International)

音楽評論家の田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬なポップカルチャーの話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。

2019年6月25日発売号の対談では、ヒロ・ムライが監督し、チャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーとリアーナが共演した話題作『グアヴァ・アイランド』が表象するものについて、田中と宇野が議論を交わしている。

宇野は、ビヨンセが2018年にコーチェラで行ったライヴ=ビーチェラとそれを作品化した『ホームカミング』がコインの裏と表のような作品だというそれまでの議論を引き継ぎ、ビヨンセとの比較で『グアヴァ・アイランド』をこのように位置づけている。

宇野 『ホームカミング』で思い出したのが、ヒロ・ムライが監督で、ドナルド・グローヴァーとリアーナが共演した『グアヴァ・アイランド』で。昨年のビーチェラと今年の『ホームカミング』がコインの裏表であるように、昨年の「ディス・イズ・アメリカ」と今年の『グアヴァ・アイランド』も表と裏で一つだと思えるんですよね。キューバのハバナで撮影された『グアヴァ・アイランド』は、アメリカを資本主義そのもののメタファーとして捉え直した作品ですよね。つまりそこでは、「ディス・イズ・アメリカ」で提示した「これがアメリカだ」と言う時の「アメリカ」から固有性を剥ぎ取って、もう一度別の形で提示し直すっていう作業が行われている。ビヨンセにしろ、チャイルディッシュ・ガンビーノにしろ、2018年に大きな現象を起こした人たちが自分の作品を再検証するっていう動きがあるのは面白いなと思いますね。

一方の田中は、ドナルド・グローヴァーという表現者のアイデンティティの在り方から、『グアヴァ・アイランド』の位置付けを論じている。

田中 そもそもビーノって位置づけが難しいアーティストだよね。ブラック・コミュニティ含め、どこかその外部にいるっていう。でも唯一、「ディス・イズ・アメリカ」は2010年代にあったいろんな文脈と彼がクロスオーヴァーした曲だとも思うんですよ。で、『グアヴァ・アイランド』って、彼もまた「どこにも帰る場所はない」っていうアイデンティティに再び回帰した、そういう作品でもあったと思う。これはディストピア恐怖症の戯言として聞いてもらっていいんだけど、『グアヴァ・アイランド』のナラティヴっていうのは、加速し続ける資本主義とそこから導かれた格差経済の話であり、地球環境の話だよね。それって、「フィールズ・ライク・サマー」と地続きなんだけど。で、もうひとつは、そこにおけるアートの役割は何か?っていうナラティヴだよね。言ってしまえば、使い古されているナラティヴに彼は回帰したんですよ。誰もがローカルなアイデンティティに回帰していく流れで、帰る場所を持たないビーノが一番グローバルで普遍的なテーマに着地したっていう。それも今のシーン全体の構造変化を象徴する出来事なんだと思うな。

本誌での2人の会話は、コーチェラでのチャイルディッシュ・ガンビーノのライヴ、カニエ・ウェストのサンデー・サービス、2019年のコーチェラの総括などへと進んでいく。

Guava Island - Clip: Summertime Magic With Donald Glover and Rihanna | Prime Vide



Edited by The Sign Magazine

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