映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が考察「米国ラップ・フィーバーの後に訪れるのは実力史上主義?」

タイラー・ザ・クリエイター(Courtesy of ソニー・ミュージック)

音楽評論家の田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬なポップカルチャーの話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。

2019年6月25日発売号の対談では、2010年代後半のUSメインストリームを中心とした全世界的なラップ・フィーバーが少しずつ落ち着きを見せる中、改めて個々のスキルにスポットが当たる時期が訪れたのではないかと考察している。

宇野:これは音楽シーンの話でもあるし、個人的な話でもあるんですけど、ここ数年のラップ・フィーバーから醒めた後に浮き上がってくるものが何か? っていう。要するに今は、大きな波が引いて、だんだんシーンが整地されていく中で、ちゃんと実力を伴ったアーティストとそうでないアーティストの明暗がはっきりとしていくタイミングなのかなと。

こうした変化を象徴する事例のひとつとして、宇野は、タイラー・ザ・クリエイターが以前よりも更に洗練された最新作『IGOR』で全米1位を獲得したことを挙げている。

宇野:(タイラー・ザ・クリエイターは)4年前の『チェリー・ボム』リリース後の来日公演の時点でも、アルバムでは今回の『IGOR』で実を結ぶことになった種をたくさん蒔いていたけど、ライヴはそんな作品がほとんど反映されてない縦ノリと絶叫でグシャグシャな感じだった。新作の『IGOR』は、その頃から彼が作品でやろうとしていたことがちゃんと整理された作品で、音楽的にはかなり込み入ったことをやっていますけど、それを作品というパッケージとして飲み込みやすいところまでトリートメントしている。これが1位になったのはいろんな意味で象徴的だと思うんですよね。

また、ガンナやダ・ベイビーといったラッパーが近年ブレイクしていることも、この変化を象徴していると宇野は考えているという。

宇野:去年ブレイクしたガンナとか、今年のダ・ベイビーとか、めちゃくちゃ上手いじゃないですか。マンブルとかクラウド・ラップとかの流れに向こうのリスナーも飽きてきて、「やっぱり上手いヤツがいい」っていう感じになっているんじゃないですかね。彼らは2人とも、別にファッショナブルでもないし、アイコンになるようなタイプでもない。それなのにこれだけ人気があるっていうのは、「みんな、トラップでも上手いヤツを聴きたいんだ」っていうのが明確に見えてきた気がするんですよ。自分もリル・ウージー・ヴァートとかあれだけ好きだったのに、最近の曲にいまひとつノレないのも、そういう時代のムードやシーンの流れと関係しているかもしれない。

本誌での2人の会話は、タイラー・ザ・クリエイターと同じくエモ・ラップの先駆けと言えるデンゼル・カリーや、ここ数年でのチャンス・ザ・ラッパーに対する世間の注目度の変化などにも及んでいる。

Edited by The Sign Magazine


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