追悼ジンジャー・ベイカー、ドラムの魔術師が残した名曲10選

8. ベイカー・ガーヴィッツ・アーミー「ラヴ・イズ」1974年


エア・フォース解体後、ベイカーはロンドンを拠点とするハードロックバンド、Gunのメンバーだったエイドリアンとポールのガーヴィッツ兄弟と共に、性急でドラマチックな音楽性に見合った名前を冠したバンド、ベイカー・ガーヴィッツ・アーミーを結成した。ジンジャー・ベイカーがプログレをやるとどうなるのか、その答えを知りたければ彼らの最初のアルバム2枚を聴くといい。過小評価されているこれら2作の中からハイライトを選ぶのは困難だが(1975年作『天上の戦い』(原題『Elysian Encounter』)に収録された「ピープル」で聴ける、ベイカーによるカウベルのイントロは必聴だ)、1974年発表の『進撃』(原題『Baker Gurvitz Army』)に収録されたインスト曲「ラヴ・イズ」は、タフでストーリー性に満ちたバンドの音楽性を物語っており、ベイカーが生み出すうねりのあるグルーヴが降り注ぐシンセストリングスと絡み合う。サウンドこそ入念に作り込まれているものの、エイドリアンのアクロバティックなパフォーマンスに応じるかのように、ベイカーは自身の代名詞といえるシンコペーションの効いたタムプレイを披露している。ベイカーのプロジェクトの大半がそうだったように、このバンドでも人間関係は決して良好ではなかったようだ。「彼はすごく気難しい人だよ」エイドリアンは2016年に行われたインタビューで、苦笑混じりにそう語っている。

9. パブリック・イメージ・リミテッド「イーズ」(1986年)


ジョニー・ロットンによるフューチャリスティックなポストパンクのプロジェクトとジンジャー・ベイカーという組み合わせに、当初人々は懐疑的だったに違いない。しかし鋭く響き渡るイントロのフィルからなだれ込む強烈なシャッフルビートを聴けば、その考えは一変するだろう。ベイカーの安定感のあるパフォーマンスは、同曲の芸術的でドラマチックな展開と見事にマッチしている。「(ライドンは)カリフォルニアを拠点にバンドを組もうとしてた。どうせなら強力なやつを作りたいと思った私は、トニー・ウィリアムス、ジンジャー・ベイカー、スティーヴ・ヴァイに声をかけた」そう話すのは『Album』のプロデューサーであり、同時期にジンジャー・ベイカーの秀逸なソロ作群(型破りなデザートブルース「Time Be Time」は一聴の価値あり)も手がけたビル・ラズウェルだ。「それまで一緒にやってたメンバーを全員クビにして仕切り直したわけだけど、最初のうちは毎晩のようにバーで大喧嘩してたよ。そういうのを経てバンドがひとつになって、私たちは時代に流されないユニークなレコードを完成させたんだ」

10. ジンジャー・ベイカー・トリオ 「Rambler」1994年


ベイカーは生涯を通じてジャズからの影響を公言し続けたが、50代になって初めて自身の名義でアルバムを発表した。彼がパートナーに選んだのは、ギタリストのビル・フリゼール、そしてベーシストのチャーリー・ヘイデンという、ベイカーと同じくテクスチャーと閃きにこだわる即興演奏の達人たちだった。『Going Back Home』におけるハイライトであり、チャーミングで素朴ながらベイカーの堂々たるシャッフルビートが光る「Rambler」(作曲はフリゼール)には、ロックでもジャズでもアメリカーナでもない、ジャンルの垣根を超えた3人が生み出す独自のグルーヴがある。着地点の見えない空中飛行のような緊張感が漂う中で、これほどにリラックスしたドラミングを聴かせられるのは彼ぐらいだろう。以降彼はジャズへの回帰を繰り返すようになり(最近作はメロウだが説得力のある2014年作『Why?』)、音楽の道へと進むきっかけになったジャズの世界で大きな存在感を示した。ベイカーとの共演について、フリゼールは本誌にこう語っている。「100人のドラマーに同じ曲を演奏させたとしたら、ジンジャーは他の誰とも異なるプレイを披露するだろう」

Translated by Masaaki Yoshida

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