カーリー・レイ・ジェプセン、ツアー初日・東京公演で見せた「ポップの極北」

気づけば、あっという間に終盤。「東京、アイ・ライク・ユー!」というカーリーの前置きを挟んで始まった「I Really Like You」で、客席のテンションも爆発する。“Like”を伝えるために“Really”を繰り返すサビは、普通の“I Love You”よりも遥かにエモーショナルに響く。この甘酸っぱさこそ、カーリーの真骨頂だ。それに何より、日本人リスナーにも親しみやすいキャッチーなメロディの応酬。どの曲もとことんポップだからこそ、カーリーのライブはいつだって楽しいし元気になれる。彼女が笑顔を絶やさずに歌い続けるうち、その笑顔は二階席のオーディエンスにまで広がっていく。それはもう絶景としか言いようがない。

本編のラストを飾ったのは、『Dedicated』の先行シングル「Party for One」。軽快なサウンドに乗せてカーリーが踊り回ると、文字どおりパーティーのようにハンドクラップが巻き起こっる。そこからブレイクをほとんど挟まず、アンコールで3曲を披露。カーリー流のシンセポップを極めたアンセム「Cut to the Feeling」で75分・全21曲のフィナーレを飾った。


Photo by Alex Perkins

この東京公演を振り返ってみると、最新作の『Dedicated』と、『E•MO•TION』及び『E•MO•TION: Side B』『E•MO•TION REMIXED +』から10曲ずつプレイされた反面、1stアルバム『KISS』(2012年)の収録曲は「Call Me Maybe」のみ。そんなセットリストからも、今のカーリーが目指しているものが見えてくるはずだ。

『KISS』の頃は一発屋になることを危惧されたカーリーだったが、コアな音楽ファンも唸らせた次作『E·MO·TION』で雑音を一蹴し、さらなるリスペクトを獲得した。そして、制作に4年を費やし、200曲も用意したという魂と情熱のアルバム『Dedicated』を完成させたことで、ようやく彼女は過去の栄光から解き放たれ、独自のアーティスト像を確立することができたのではないか。

筆者は2013年に一度だけ、カーリーに取材したことがある。そのとき彼女は、子供の頃からウィリー・ネルソンやヴァン・モリソン、ブルース・スプリングスティーンなどに親しみ、ビリー・ホリデイに憧れる一方、キンブラなど同世代の才能にもシンパシーを示していた。音楽家として広い視野と豊かなバックグラウンドをもつ彼女は、10年以上前のインディーズ時代にはフォーキーな音楽性を志向したものの、やがてシンセポップ路線に移行。期せずしてジャスティン・ビーバーとの出会いを果たし、遅咲きのブレイクを飾ったのは周知のとおりだ。そこからの道のりは、ポップスターとして“選ばれてしまった”自分の運命を受け入れるための旅路だったに違いない。

カーリーはあのとき、『KISS』について「ピュアなポップ・アルバムを作りたいと思ってた。考え過ぎなポップじゃなくて、人々がいい気分になれるような音楽をね」と語っている。この言葉どおり、彼女は煌びやかな80sサウンドとともに“ピュアなポップ”を長らく追求してきた。そして現在、カーリーは流行に流されない普遍性と、シンガーとして完璧と言いたくなるほどの表現力を手にしている。そこには前述のとおり、余計なものは一切存在しない。彼女はいよいよ、ポップの極北にまでたどり着こうとしている。


Photo by Alex Perkins



〈ツアー情報〉



The DEDICATED TOUR JAPAN 2019


2019年10月7日(月)東京・NHKホール
※公演終了

2019年10月9日(水)愛知・Zepp Nagoya
OPEN 18:00 / START 19:00

2019年10月10日(木)福岡・Zepp Fukuoka
OPEN 18:00 / START 19:00

2019年10月11日(金)大阪・Zepp Namba
OPEN 18:00 / START 19:00

2019年10月13日(日)仙台・Sendai GIGS
OPEN 17:00 / START 18:00

詳細: https://www.creativeman.co.jp/


〈リリース情報〉


『デディケイティッド』
2019年5月17日(金)発売
国内盤CD:UICS-1351 ¥2,300+税
※17曲収録、歌詞対訳付
※日本盤限定デザイン・スリップケース仕様 & ボーナストラック2曲収録
試聴・購入:https://umj.lnk.to/Carly_Dedicated

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