スピッツ『見っけ』考察、パワフルな演奏に宿った「はぐれ者」への眼差し

“らしさ”と“新機軸”を兼ね備えた『見っけ』の全容

そして新作の『見っけ』。このアルバムは『小さな生き物』から変化の片鱗をうかがわせてきた、枯れることない若々しさを持つ、いまだエネルギーに溢れたロック・バンドという自画像を、さらに前へと切り出したアルバムだ。

銀河の果てまで宇宙飛行をしているかのようなシンセのフレーズをハード・ロッキンな演奏にまぶした表題曲は、バンドがかねてから愛情を公言してきたチープ・トリックを彷彿とさせる勇猛かつポップなナンバー。そして間髪入れず朝ドラ『なつぞら』の主題歌として、すでに多くの人から愛されている「優しいあの子」へと続く。“ありがとう”という言葉を、遠く離れた誰かに告げたいという世界観は、次の「ありがとさん」とも地続き。この曲は、柔らかなサイケデリアとロッカ・バラッド調のメロディが魅力的だ。オルナタティブ・ロック的な演奏とあいまって中期ーー『フェイクファー』(1998年)や『ハヤブサ』の頃を想起するリスナーも多いだろう。




電波不良を思わすサイケなエフェクトを施した「ラジオデイズ」は、スピーディーなパンク・ソング。「花と虫」は軽やかなネオアコ・ナンバーかと思いきや、細やかなドラミングとうねりまくるベースラインが重たいグルーヴで牽引している。そう、このアルバムはバンドの演奏がとにかくパワフル。溢れんばかりの初期衝動には、メンバー4人が50歳をすぎての初アルバムとは思えない。その一方で「ブービー」における50年代オールディーズ・マナーのコーラスも堪らない。“宇宙からきた/僕はデブリ”と、疎外感を抱え、みずからをとるにならないモノととらえてしまう、弱き存在の立場に寄せた歌詞が優しい。

ギター・アルペジオと疾走感に「リコシェ号」(『惑星のかけら』収録)を思わずにはいられない「快速」では、“速く速く/流線形のあいつより速く”と勇ましく歌われる。The 1975の「Chocolate」みたいにゴキゲンなファンク・ポップの「YM71D」は、“きまじめで少しサディスティックな/社会の手ふりほどいた”と、世界の外側にあるフリーダムな空間へと聴き手を誘い出す。そして、三輪テツヤのスラッシュばりに艷やかなギター・ソロが炸裂する「はぐれ狼」は、人と違った道を行くことの決意を綴ったロックソングだ。



アンサンブルとして新機軸を示しているのは「まがった僕のしっぽ」。エモやポスト・ハードコアを思わせる三拍子が基調のパターンと中盤のリズム・チェンジがユニークだ。哀愁漂うフルートの音色もまた独自のメランコリアに貢献している。「初夏の日」は、ファンなら音源化を歓喜せずにはいられない楽曲。というのも、この曲は京都のライブでのみ披露されていた、知る人ぞ知るナンバーだからだ。最終曲の「ヤマブキ」は、1曲目「見っけ」の姉妹編とでも言えそうな開放感に溢れたロック。“陳腐とけなされても/突き破っていけ/突き破っていけ/よじ登っていけ/崖の上まで”というリリックが爽快で力強い。アルバムの最初と最後をパワフルなハードロックで据えるという構成は、彼らが今作に込めた意思を表明しているようにも思える。

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