blink-182『ナイン』考察、レガシーもクロスオーバーも体現してしまうバンドの今

ブリンクの強みとは何だったのか?

blink-182の強みは、トレンドセッターでゲームチェンジャーであったことが大きいし、どれだけ幅を広げようとも、そこには必ず彼らならではの歌とメロディがあり、自分たちの経験を言葉にしたリアルなリリックがあったことも大きい。そういう意味で、新作『ナイン』はblink-182の様々に異なる魅力を上手く伝えた、非常にバランスが良く取れたアルバムだと言える。

アルバム・タイトルの『ナイン』の意味することは数字の「9」で、1994年の『ブッダ』をデビュー・アルバムとして数えた場合、このアルバムが9枚目になるという理由でこのタイトルがつけられた。そして、「9」は無条件の愛の番号でもあり、天王星の番号らしいのだが、そうやってタイトルに意味を持たせない感じは、『blink-182』(本国では『Untitled』と呼ばれている)に通じるものがある。

『ナイン』はblink-182らしいアルバムではあるのだが、驚いたことに、このアルバムにはジョークの歌が1曲もなかったりする。アルバム全体を通して、彼らのパーソナルでダークな面が何度も出てくるのだ。冒頭を飾る「The First Time」にしても、何ごとも「初めて」に勝るものはないと歌い、そこはかとなく喪失感を漂わせる曲になっている。もちろんサウンドの方は、おなじみのキャッチーで楽しいアゲアゲ感はバッチリある。しかし他の曲でも、人生の苦悩や絶望を歌っていたり、別れや喪失感、孤独、過ぎ去りし日のことを歌っていたりして、シリアスなテーマが多かったりするのだ。そして、曲の中には若い世代への目線もあったりして、ある意味大人になったblink-182というイメージが加わっているのも興味深い。



オフィシャルのプレスリリースによれば、マーク・ホッパスはこのアルバムについて、「27年間このバンドでやってきて、俺はさらにこのバンド押し進めて新しいことがしたいと思ったし、これまで行ったことのない場所にブリンクを連れて行きたかったんだ。このニューアルバムでは本当にそれをやろうとしてたし、2003年の『blink-182』でやったようなことをやりたかった。自分たちの土台に立ちつつ、完全にヘンテコな方向に突き進むっていうアルバムを」と語っている。

僕はバンドが『blink-182』を制作している時、運良く制作現場のスタジオに居合わせたことがあるのだが、この時も、自分たちに課せられた枠のようなものを打ち破るべく、コンセプト的にもサウンド的にも実験を何度も重ねているバンドの姿があった。『ナイン』にはこの『blink-182』を彷彿とさせるような、ダークなテーマとキャッチーなソングライティングのバランス、内省と外に向かうエナジーのバランスの絶妙さが感じられる。様々な曲のバリエーションも楽しめるし、パンク/ハードコアのルーツに回帰したような曲やマット・スキバらしいゴス感がバッチリ出た曲があるのも聴いていて楽しい。そして、トラヴィスの叩くドラムがさらに人力の打ち込みビートと化していて、バンドのグルーヴを進化させているのも聴きどころだ。

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