香取慎吾のサプライズ新曲「10%」は、がんじがらめな日本に風穴を開けるか?

さて、あきらかに消費税増税を意識したと思しきタイトルであるだけに、注目が集まるのは歌詞だ。前述したように、歌詞は言葉の響きをとにかく優先させ、ダブルミーニングや深読みを誘うフレーズを紛れ込ませながらも、全体としてはむしろ空っぽだ。この歌詞をもっともらしく「読解」するのはちょっと躊躇われる。

単に部分だけ取り出せば、炎上が頻発して疲弊するSNS社会とか、いわゆる「フィルターバブル」に没入する人びとの姿、あるいは増税によってのしかかってくる不安にさらっと言及しているようにも思える。しかしこの歌詞は「10%」を思いつくまま気の向くまま、さまざまな意味へ次々に拡散させていく。単純に数学的な定義、体脂肪率、消費税、好感度、視聴率……と、「10%といってもいろいろあるよね」といった感じ。部分部分にあらわれる「それっぽさ」「なんか言ってる感」よりもこの言葉や連想の暴れっぷりのほうがこの曲の特徴だ。

これをどう評価したものだろうか。

無節操な連想と音の快楽に導かれてつくられたこの言葉の羅列にある人は元気づけられ(そんなネット記事を見た)、またある人はクリティカルなメッセージの幻影をほのかに期待する(そんなネット記事も見た)。これを文学的な「解釈の余地」と言うべきか、思わせぶりなキーワードに頼った「玉虫色の解釈」と言うべきか、迷うところだ。

いったんその評価を保留し、さらに状況をちょっとだけ俯瞰して、香取慎吾が自分の表現をこのように世間に対して仕掛け、ヒットさせられる、ということ自体に目を向けると、これは頼もしい。なにかといえば慣習にがんじがらめになりがちな芸能・音楽業界にあく風穴であってほしい。しかし、もうちょっと高望みしたいところだ。最後にめちゃくちゃおこがましいことを言うけれど、「新しい地図」的な「質が安定して高く、ネット戦略が巧み」ということ以上の一歩を、香取慎吾に踏み出して欲しい。




香取慎吾
「10%」
配信中
ダウンロード・視聴:
https://lnk.to/Y38rk


『リズムから考えるJ-POP史』
imdkm
四六判・二百六十四頁
価格:1,800円+税
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imdkm(イミヂクモ)
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ティーンエイジャーのころからビートメイクやDIYな映像制作に親しみ、Maltine Recordsなどゼロ年代のネットレーベルカルチャーにいっちょかみする。以後、京都で8年間に渡り学生生活を送ったのち、2016年ごろ山形に戻ってブログを中心とした執筆活動を開始。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージック について考察する。

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