香港人の写真家が見た「抗争の夏」

高い壁の前にある抗争の思い

市民を暴力から守り、暴行に対抗するはずの警察は、デモ隊に対して権力を濫用し、暴力団との汚職を犯した。このことにより、香港中の怒りが爆発。警察と市民の敵対関係を白熱させ、ますます多くのデモや集会が行われるようになり、地元の市民も自発的に警察署を取り囲んだ。一方、各界は6月9日からの一連の事件を徹底的に調べるよう、独立調査委員会の成立を強く求めた。香港の汚職調査機関・廉政公署は積極的に調査を始め、各政府部門の公務員も立ち上がった。しかし、政府は引き続き中国政府の支援の下、引き続き厳しい態度で対応。今後さらに中国解放軍の出動もありえるのではないかとささやかれている。


デモ実施を警察に禁止され、福建組合(中国人)がデモ参加者の特徴である黒服を着ている若い者に無差別攻撃を宣告したため、ヴィクトリア・パークで集会をすることになった。集会後、家に帰ろうとするデモ隊が警察に太古駅でエスカレーターの上から蹴り落とされた。また、警察は住宅街で催涙ガスを発砲、住民たちが激怒し、警察を追い出そうとしていた。そのまま、隣である西灣河駅まで広がり、警察が無装備だと両手を挙げている一般市民に対して警棒を振り、逮捕すると脅迫した。(Photo by Viola Kam)


8月11日、警察が尖沙咀で救急隊の女性隊員の右眼をビーンバック弾で打ち潰した。1万人規模のデモ隊が航空業界と共にストライキを行い、空港で集結、「警察、目を返せ」と主張。デモ隊は観光客に香港の状況を伝えようとしたが、警察の圧力により香港空港管理局が当日の300便をキャンセルし、翌日も370便がキャンセルされた。デモ参加者が右目を隠して抗議。(Photo by Viola Kam)


8月30日、民主活動家、民主派の立法会議員3人が逮捕された。デモの申請が再び反対され、デモ隊が自発的に政府本部周辺に集結、警察が発砲して制圧。(Photo by Chan Long Hei)


8月31日、警察が太子駅構内で、市民を無差別攻撃し、逮捕した。怪我人が10名程いたが、警察は「怪我人はいない」と主張し、救急隊を駅構内に入れることを拒否。その後、消防士と救急隊が構内に入ることができたが、重度の負傷者の即時病院への搬送を警察に拒否された。結局、記録に残された入院患者数は7人。後の三人は行方不明となり、警察に殺されたという噂があった。怒りが抑えきれなかった人々がネットの呼びかけに応じ、空港で集結抗議を行った。公共交通機関は全て停止されたため、夜に自発的に集まった約5000名のドライバーが空港周辺に残されたデモ隊を救出した。「香港のダンケルクの戦い」と呼ばれる夜だった。観光客は高速道路を沿って市内まで歩いた。(Photo by Chan Long Hei)

9月に入り、運動が始まって3カ月になる頃、香港で大規模なストライキが2回も起きた。参加企業は、香港経済に最も影響を与える金融業界、航空業界と医療業界を含む前代未聞の幅広さで、香港では多数のエリアで大規模ストに関する集会が行われた。そして、数日に渡って空港での座り込み抗議が行われ、その大勢の人数でフライトがキャンセルとなるほか、空港を2日連続にほぼ運作停止となり、空港側が禁止令の申請で一段落となった。さまざまな騒動や衝突に対し、キャリー・ラム行政長官はテレビやラジオを通じ、立法会再開の際には議事規則に従い逃亡犯条例を撤回させ、同時に自ら足を運び市民とすると提唱。専門家と共に社会の根深い問題を話し合う意思を示した。だが、多くの市民は当初の要求に対して明確な回答が3カ月も遅れたことに対し不満を抱いている。また、キャリー・ラム行政長官は独立調査委員会の設置を断固反対し、警察の権利を無限に拡大することを許可。民衆の政府や法律執行機関への不信感は右上がる一方だ。さらに、これまでデモ参加の疑いで逮捕された人数は1,000を超え、逮捕後に暴力を振るわれたり、さらに性的暴行を受けたという噂も出ている。「5つの要求は不可欠」の声は、また続くようだ。

若者だけでなく香港人全員が、誰もが昔のように輝く香港に戻ることを、そして恐怖に脅かされない自由を望んでいる。たとえ24時間しかない場合でも、香港に戻り取材・撮影するViola氏は、この状況を無視することなどできないと言う。「いつも本能で動いているんです。どんな終わり方になるのかは分かりませんが、あるひとつひとつの瞬間を捉え、拡散したいと思っています。」大学では社会科学系を専攻したHei氏は、自分の立場でできる限りのことをして、社会に貢献したいと決意している。「弱者への配慮は社会科学においてとても大切なこと。僕はフリーランスの記者だから、どんな勢力にも操られることはない。第四の権利をもつメディアとして、ほかの三権と権力を持つ人々を観察する、ひいてはそれが弱者へ配慮することにもつながるのではないでしょうか?」

不条理で冷たい政府、高官の嘘、警察の強大な勢力と、任務執行の不公平、警察と暴力団との黒いつながり…それらが白色テロ緊張で張り詰めた香港社会を生み、未来ある若者たちを「暴徒」と非難し絶望の淵に追いやった。しかし、この戦いの夏、私たちは高い壁の前に立ち、激情と優しさの間を行き交い、強い信念を胸に抱いている……「我々は香港人だ」という信念を。

Chan Long Hei
https://www.chanlonghei.com/
香港出身、大学で社会科学専攻。卒業後、2016年からフリーランスカメラマンになり、香港をはじめ国際的に活躍。主に報道とポートレートを撮影。

Viola Kam
https://shadowviola.wordpress.com/
香港出身。イギリスにて、ジャーナリズム / フィルム / メディアについて学んだ後、2008 年に日本に留学し、上智大学院でグローバルスタディーズを研究。写真なら言葉の壁を越えてたくさんの人に伝えられると、写真を独学、大学院を中退し、カメラマンへ転身。主に音楽と社会運動のドキュメンタリーを撮影。

Translated by Candy Cheung, Mariko Shimizu

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