常田大希は今、なにを見て、なにを感じ、なにを創ろうとしているのか

なぜ今、新プロジェクトなのか? 世界で勝負するための表現とは

5月22日、水曜日。ついに本番。当日のリハーサルでも想定外に時間を要していて、様々な先鋭技術を用いながら新たなことをやるためには、予期せぬトラブルから逃れられないことを実感する。19時開場、20時開演の予定だが、17時半になってようやく通しリハーサルができる状態に。会場全体に緊張感が走るなか、「1回通そう! トラブったらすぐに教えて」とチームを牽引する常田。


本番前のリハーサル中、ステージ上には緊張感が溢れていた。(Photo by Ray Otabe)

無事にリハーサルを終えて、19時25分、ようやくドアが開いてお客さんを迎えることとなった。開場中、スクリーンには「PUT YOUR GLASSES」という文字と子どもが3Dメガネをかけるイラストが映像で流れ、お客さんは入り口で配布された3Dメガネを装着しながら開演を待つことに。この日のライブのチケットも、即完だった。会場内に入りたくても入れなかったKing Gnuファン、常田大希ファンが大勢いた。

そもそも、これほどまでにKing Gnuが絶好調のタイミングで、なぜmillennium paradeを始動させようと思ったのか? どんな仕事や職種においても、絶好調なときにこそ新たなことを始めるべきだ、という考え方もあるが、多忙な時期が落ち着いた頃に次のことに取り組む、という選択肢だってもちろんあるはずだ。

「このライブをやろうと決めたのは、半年くらい前ですかね。タイミングを探ってはいました。バンドで売れた人が、ソロで音楽的に凝ったふうなことをやりだす、っていうのはよくあるけど、そういうのと一緒にされたら困るので(笑)。ソニーミュージック(所属事務所兼レコード会社)と契約したときから、King Gnuで2年間猛烈に走る、ということを言っていたんですよ。今がちょうど3年目を迎えたところで。契約当初から、もともとやってたmillennium paradeをやるよって言っていたんです」

常田は2017年にKing Gnuを始める前から「Daiki Tsuneta Millennium Parade (DTMP)」名義で活動していて、millennium paradeとしてのローンチパーティで披露された新曲のなかには、2016年にリリースされたアルバム『http://』の収録曲を発展させたものもあった。たとえば、この日1曲目に演奏された「Fly with me」は、『http://』収録の「Down&Down」を発展させたもの。常田いわく、millennium paradeとしての楽曲は常に作っていて、ライフワークに近い状態だという。King Gnuでの曲作りと、millennium paradeの曲作りにおける意識の違いを、常田に言葉にしてもらった。

「とにかく、まず日本の音楽業界の価値観から離れたかった。どっちも『トーキョー・カオティック』『トーキョー・ミクスチャー』というのがコンセプトではあるんですけど、King Gnuはそれが日本の音楽業界のなかで、millennium paradeはその文脈ではない、世界から見たもの、っていうのかな。ワールドワイドで見たらKing Gnuよりmillennium paradeのほうが広がる可能性は全然あると思っているんですよね」

以前のRSJの取材で、King Gnuは日本における大衆歌を作ることを目的としていて「海外は視野に入れていない」とはっきり答えていたが、その一方で、millennium paradeでは世界のリスナーと繋がることを猛烈に意識している。常田の作家性を表すワードとも言える「トーキョー・カオティック」を、彼自身は世界に向けてどう活かそうと考えているのか。

「今回の演出でも、まあまだ『ローンチ』なので全然実現できてないんですけど、東京発のアーティスト、アジアならではのアーティスト感は意識しました。東京というのは、こんなにもしょうもなくて素敵な街なんだ、いろいろなカルチャーがごちゃ混ぜで節操も美意識もないけれど、変なところではめちゃくちゃ潔癖だったりするんだ、っていう」

「トーキョー・カオティック」を砕いて言うと、「対比」「ギャップ」「矛盾」ということになるだろう。たとえばKing Gnuでも、井口が面白キャラを演じる一方で常田はクールな佇まいを見せていたり、歌においても井口がJ-POPのポップソングらしく透き通った美声を聴かせる一方で常田は拡声器も使いながらロックンロール全開なしゃがれ声を出していたりと、King Gnuならではの「対比」「ギャップ」「矛盾」を見せることで大勢の人の心を揺さぶっている。そしてmillennium paradeのローンチパーティでも、「赤ちゃん」が「鬼」の仮面をかぶって踊っている映像や、「自由」と「統制」を表すような映像が3Dで流れたり、石若駿(Dr)、江﨑文武(WONK / Key)、安藤康平(MELRAW / Sax,Gt,Vocorder)、新井和輝(King Gnu / Ba)、勢喜遊(King Gnu / Dr)によるツインドラムの凄まじい迫力あるインプロヴィゼーションのあとに女性ボーカル・ermhoi(Black Boboi)の神聖な歌が響きわたったりと、「対比」「ギャップ」「矛盾」を落とし込んだ表現が多々見られた。

「それはある意味『わび・さび』とも言えるし。『わび・さび』というとミニマリストみたいな印象を抱きますけど、それをもっとデフォルメしてエンターテインメントに昇華させて、東京の街並みとか日本人の心の持ちようの対比を表現したい。音楽的な面でいうと、たとえばオーケストラサウンドをガンガン入れるだとか、違うカルチャーのサウンド同士をひとつの作品で調和させて成り立たせるということを意識していますね。そうやることで、俺が見えてる新しい音楽、自分のオリジナリティのある音楽ができる、っていうのは昔から思っていたので。Gorillazがやっていることって、本当は日本人がやるべきだったなっていうのはすごく思っているんですよね。イギリス人が、アメリカのサウンドを取り入れながら、アニメーションをやるっていう」

何度も「世界」を意識した言葉が常田から出てきたが、頭脳もバランス感覚も長けている彼は、決して日本のリスナーを置いてけぼりにしようとは思っていない。『“millennium parade” Launch Party!!!』で演奏された全14曲は、現在進行形のジャズもヒップホップもエレクトロもクラシックも内包した音楽性を鳴らしながら、フリージャズのパートがあれば、歌もののパートもあり、エクスペリメンタルな部分とそうではない部分のバランスが非常に考え抜かれているように思った。

「King Gnuからの導線は意識しています。ここであからさまに前衛的なものを出しても、King Gnuが好きで常田大希に興味がある人はついて来れないから。たとえば“Plankton”はめちゃくちゃ意識してる。この曲は日本の音楽業界から受けた影響がありますね。つまり、メロディが重要なんだなってこと。今までmillennium paradeで作ってきたサウンドに対して、めちゃめちゃ日本っぽいメロディを付けました。歌のメロディラインだけ聴いたらポップなんですよ」



ermhoiがヴォーカルを取る「Plankton」は、産業の象徴である車から、動物(家畜)たちが出てきてパレードし、最後には車が燃える、といった内容の映像演出だった。年内にこの楽曲をライブ以外の形でも発表する予定とのこと。ライブで1曲目に演奏した「Fly with me」も、年内に発表予定だそうだ。この曲では、佐々木集(PERIMETRON)とCota Mori(DWS)がコーラスとして参加し、重要なラップパートを担っていた。

「『Fly with me』は、金を稼ごうっていう曲。『田舎者の歌』っていうのがテーマで、日本から海外に行っても『田舎から出てきたぞ』ということを示せる曲だと思っています。俺たちチームの主題歌みたいな感じですね。ふたり(佐々木集とCota Mori)を入れたのも、ラップが上手いことよりも、『俺たちで金稼ごう』っていう自分たちの想いを伝えることが重要だったから。ラップに限らず、テクニック的なものよりグッとくるものってありますからね」

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