マンソン・ファミリーによる殺人事件、50年を経て明らかになった新事実

ロサンゼルスの法廷で騒いだため強制的に退廷させられたチャールズ・マンソン。ランチへ向かう際に不敵な笑みを浮かべる(1970年) George Brich/AP/Shutterstock

チャールズ・マンソンの信者がロサンゼルスで9人を殺害した残忍な事件から50年が経ち、事件は今や伝説となっている。しかしトム・オニール著『Chaos』によると、未だに明らかになっていない事実もあるという。

50年間に渡り、マンソン・ファミリーによる殺人事件は米国内でも語り継がれてきた。しかし事件の詳細についてよく知る者は少ない。1969年8月9日〜10日にロサンゼルスで9人が殺害された事件で、チャールズ・マンソンは直接手を下していないと知ると驚く人もいる。このカルト指導者と信者らが逮捕されたのは殺人事件から2ヶ月後のことで、しかも逮捕の容疑は殺人でなく車両窃盗だったという事実も、あまり知られていない。信者のひとりだったスーザン・アトキンスが同房者に、シャロン・テート殺害についてペラペラと自慢話を始めたことから、ようやく事件の詳細が明らかになりだした。その後事件は伝説として語り継がれることとなる。

事件について現在知られている話のほとんどは、実際の犯罪をテーマとしたジャンルの中でベストセラーとなっている著書『Helter Skelter』に基づいている。マンソン・ファミリーの事件裁判で首席検事を務めたヴィンセント・ブリオシによる同著が1974年に出版されたことで、ひとつのストーリーが一般に定着したのだ。少年拘置所で人生のほとんどを過ごしたある熱狂的なカリスマ性を持つ男がサマー・オブ・ラヴ(=1967年)直前に出所し、ドラッグにまみれたヒッピー集団を形成。彼はロサンゼルスのポップシーンへ参入しようと試みたがあっけなく拒絶されると、今度は自分のフォロワーたちに、残忍な殺人事件を続けて暴力的な人種間戦争の時代を切り開くべきだと説く、といったストーリーだ。このストーリーがマンソンを残忍な計画へと駆り立てた、とブリオシは言う。マンソンはザ・ビートルズの『ホワイト・アルバム』の収録曲にあやかり、自らの計画を『ヘルター・スケルター』と名付けた。マンソンにとってビートルズは、楽曲を通じて自分にメッセージを送る黙示録の4騎士だったのだ。

それから45年が経ち、著書『Helter Skelter』の内容に陰りが見えてきた。著者が自らを美化した表現はさておき、事件に対する彼の認識にも疑わしい点がある。何があろうと被疑者に有罪判決を受けさせることが仕事である検事の言うことを、文字通り真に受けることはできない。2019年、ある男が20年かけた調査研究の成果として、ブリオシの作り上げた神話のほとんどを崩そうとしている。事件から30年が経った1999年、トム・オニールはプレミア誌に投稿した特集記事をきっかけにマンソン・ファミリーの研究を始め、著書『Chaos: Charles Manson, the CIA, and the Secret History of the Sixties』に自身の理論をまとめた。著書の中やローリングストーン誌との2度に渡るインタヴューでも繰り返し述べている通り、まだ解明すべき多くの謎があるとオニールは言う。マンソンのストーリーを知ったつもりでいた我々の持つ知識は、どうやら誤っていたようだ。

誤解のないように言うと、オニールは有罪判決を受けたマンソン・ファミリーのメンバーが無実だと主張しようとしている訳ではない。彼が解き明かそうとしているのは、まずマンソンが殺人の犠牲者を選んだ理由だ。それから、捜査当局が犯人を特定するまでになぜ長い時間がかかったのか? なぜ検事側が不備があると知りながら主張を押し通したのか? そして米国の歴史上には多くの残虐な事件があったにもかかわらず、なぜマンソンの事件が我々の記憶に残っているのか、といった疑問をオニールは提起しているのだ。

オニールとジャーナリストのダン・ピーペンブリングとの共著『Chaos』は多くの章に分かれているが、主張内容は大きく2つにまとめられる。同著ではまず、ブリオシが裁判に勝つために証拠を隠蔽し、証人に対して裁判で偽証するよう促したことを証明しようとしている。また、ブリオシは一連の工作を正当化するためにベストセラーとなった自著で嘘を広めた、と主張している。さらにオニールの説明によると、マンソン・ファミリーによる残虐な事件の動機は、「人種間の闘争を煽って最終的に黙示録のような終わりを迎えること。そうやって全ての白人を地球上から消滅させる。そして砂漠に開いた底なしの淵に隠れて難を逃れたマンソン・ファミリーは、その後復活して黒人を支配下に置き、純粋にマンソンの血を引く子孫たちによって世界を埋め尽くすこと」だという。メイソンよりもブリオシよりも大きな、当局が表沙汰にしたくない何かが隠されている、とオニールは主張する。

「我々は、公式記録の誤りを指摘できる全ての証拠を明らかにしようと決断した」とオニールは言う。オニールらは独自の取材と徹底的な調査により、『Helter Skelter』に書かれたストーリーは陪審員を納得させるためと、そしてもちろん本を売るために作り上げられたものである、という膨大な量の証拠を示している。

『Chaos』が主張するふたつ目のポイントは、オニール自身も認める通り、完全な推測に基づいている。「事実だと私が信じる内容を客観的に説明するにあたり、私は陰謀論を掲げた。短絡的で言い訳のように聞こえるかもしれないが、読者には全てを知った上で自ら判断して欲しいと考えた」とオニールは言う。著書によると、隠蔽の裏にある大きな秘密とは、マンソンが意識していたか否かは不明だが、彼が政府の監視下に置かれていたというものだ。

サンプル
オニールは、テリー・メルチャー(当時27)が語ったチャールズ・マンソンとの関係に疑問を投げかけている。

Translated by Smokva Tokyo

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