LiSAが語るblink-182「昔も好きだったし、今も好きだと言えるバランスの大事さ」

LiSAが大事にしている変わらない「軸」とは?

―それで言うと、LiSAさん自身が表現の変化の指針にしているものと、変わらない軸はどういうところにあると思いますか。

そうですね……私はソロアーティストだから、言ってしまえば曲を作っていく相手次第でどんどん変わっていくし、私の選択次第でもどんどんカラーが変わりがちなんですね。そういう意味では、自分の芯を貫くのも大変なところが多いのかもしれなくて。でも、その中でもLiSAを始めるにあたって一番大事にしたものを貫くこと――それが私にとっての「変わらないもの」だと思いますね。

振り返ると、私は元々はダンス・ミュージックが好きで。特にジャネット・ジャクソンやTLCみたいに、カッコよく踊って綺麗に歌い上げるR&Bが好きで歌うようになったんです。でも、スキルや素質の面で「私の居場所はここじゃない」って思っちゃったんです。そういう時に、アヴリル・ラヴィーンやパンクに出会って、生活に退屈を感じていた部分でも、好きだったダンス・ミュージックからはみ出た部分でも、枠を壊して素直に生きていいんだよって言ってもらえた気がしたんですね。カラーは変わっていっても、そういう「自分らしくあれ」っていう精神性はずっと自分の軸にあるのかなって思います。

LiSA 「紅蓮華」 -MUSiC CLiP YouTube EDIT ver.-



-LiSAさんの楽曲も、数を重ねるにつれてポストハードコアやパンク・ロックの要素を増してきたと思うんですね。それも、徐々に自分の枠を壊してきた道のりだと言えますか。

ああ、そうだと思います。元々はと言うと、パンクが好きだったからこそ「可愛い」って言われることに抵抗があったんですよ。男の子と対等で遊びたくても「女の子だからダメ」って言われたり、男の子と泥だらけでサッカーをしたいのに、女だから仲間に入れてもらえなかったり。それが嫌だったんですね。

でも、アニメと関わらせてもらうようになってから、「あなたは可愛い女性なんだよ」「女性だからこそこういうこともできるんだよ」っていう客観的な視点をもらったんです。元々は自分らしさを貫きたいと思ってパンクに憧れていたけど、そこに混ぜてもらえなかった。じゃあ自分には何ができるのか、っていう時にみんなが引き出してくれたのが、「可愛い」とか「女性である」っていう部分だったんですよ。それを一度吸収して、「可愛い」も「女性」も自分の武器なんだと受け入れた上で、「でもやっぱり私はパンクが好きだ」っていうところに戻ってこられた気がしたんですね。新しい武器を持ったことで、自分が好きだったものを素直に出せるようになってきたというか。

-自分の持っているものを拒むんじゃなくて受け入れたことで、原点に近いところに戻ってこられた。本当の意味でありのままを知っていく過程というか。

そういうことなんだと思います。やっぱり自分を素直に表現して、自分らしく生きていけばいいっていうところがパンクへの憧れになってきたんだなって。だからこそ、ブリンクの変わらない軸を感じられる曲が今も聴けると、すごくうれしくなるんです。

今回で言うと、2曲目の「Happy Days」にグッときて。自分の思い出の中にあるブリンクをやってくれていて、なおかつ「ここのフレーズ、あの曲だな!」ってニヤリとできる部分がたくさんあるのが「Happy Days」で。しかも、その「ブリンクらしいなあ」って思える曲を、トムがいなくなっても作れるのがすごいなあと。たとえば……トラヴィスとマークも別プロジェクトで+44っていうバンドをやってたじゃないですか。



-+44は、リズムで実験する向きが強いバンドでしたね。

そうそう! それなのに、ブリンクで集まった時は、ちゃんとブリンクらしい曲になる。それが不思議だし、バンドって面白いなあと思うんですよ。じゃあどうしてそれが可能かと考えたら、やっぱりトラヴィスのドラムの幅の広さが大きいと思ったんです。

-そうですね。今回も「Blame It On My Youth」のようにヒップホップのビートを軸にした楽曲がありますし。



これだけサイド・プロジェクトもやっている中でも、いろんなリズムを組み合わせながらもブリンクらしい曲にしていくんですよね。トムがやっていたボックス・カー・レイサーも、マークがやっていた+44も、ドラムはトラヴィスだったじゃないですか。だけど一方ではトムとマークが一緒にアティカスっていうアパレルブランドをやっていて(笑)。トムもマークもトラヴィスのスター性・アイドル性をちゃんと理解してたんだと思うし……みんなが三角関係を大事にしているのがわかるのも、BLINKの素敵なところだなあと思ったんです。

今はトムが脱退してヴォーカルがマット(・スキバ/blink-182の盟友とも言えるアルカライン・トリオのヴォーカル&ギターでもある)になりましたけど、彼もblink-182っていうトライアングルをすごく大事にしていることがよくわかる歌じゃないですか。

-本当にそうですね。トムの高い声の替わりがいるのか、という心配をよそに、とても飛翔感のある歌を聴かせている。

そういう歌のよさも、やっぱりトラヴィスのビートが「ブリンクらしさ」を演出しているからこそだと思ったんです。そこでリズムにより一層耳を傾けると、先ほど言われたように、トラヴィスのドラムのヒップホップ感を押し出してきた作品だなっていう聴き方もできるアルバムで。そこが今っぽさに繋がってるんだろうなって。

-そうですね。節は出てるけど、その中にはちゃんと新しい進化と変化がある。

……あ、新しさって言うと、ひとつ気になったことがあって。「Darkside」のMVに出てくるダンスって、今流行ってるんですか? DA PUMPの「U.S.A」でも見たダンスですけど、元々は何かのゲームに登場して、それで流行ったっていう話をどこかで聞いた気がするんですけど。



-日本では「いいねダンス」と言われてるやつですよね。オンラインゲームの『Fortnite』で世界的に流行したダンスだ。

そうなんだ! ゲーム発祥で流行ったんですね。……そう考えると、やっぱり今の世の中で流行っている新しいことも貪欲に取り入れようとしているバンドですね。他にもリル・ウェインをフィーチャーして、「What’s My Age Again?」とリル・ウェインの曲をマッシュアップしてましたよね。新しいことに興味を持って、新しいことを発信しようっていう気持ちが常にあるんだなって。トムが脱退しても今の時代のパンクロックをやるんだ、だからこそ今までのブリンクを大事にしながらも新しい変化も恐れないんだ、っていう意志が端々から感じられますね。ポップ・パンクの時代の分岐点を作ったバンドだと自覚しているからこそ新しいトライにも貪欲なんだと思うし、だけど、過去の栄光に浸ってない。改めて、大事なものだけを持って変化していくことの重要性をいろんな部分で感じられるアルバムだと思います。



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