ザ・カーズからプロデュース業まで リック・オケイセックの生涯とロック史への貢献

リックの視界には、いつも“Next”しかなかった

ソロ・アーティストとしてのリックは、その後もプロデュースワークの合い間を縫うようにして、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンと共同プロデュースした『Troublizing』(1997年)、セルフ・プロデュースに戻った『Nexterday』(2005年)を発表。前者にはバッド・レリジョンのブライアン・ベイカー、ナダ・サーフのアイラ・エリオットが、後者にはバッド・ブレインズのダリル・ジェニファーが客演した。過去に手掛けたアーティストたちが、いざというときに馳せ参じる……これぞリックの人徳が成せる業だ。これら2作ではオルタナティヴ以降のサウンドにアップデートしつつ、カーズ初期から一貫したリック節を堪能できる。年相応に枯れた風情のアルバムを作るという発想が、リックにはまったくなかった。彼の視界には、いつも“Next”しかなかったのだ。

『Nexterday』(2005年)に収められた「Silver」は、2000年に他界したベンジャミン・オールに感謝の想いを切々と語りかける、決して忘れられない曲だ。




その後、元カーズ組から再結成ツアーへの参加を乞われるも固辞したリックだったが、2010年に新作のレコーディングを前提とした正式な再結成がいよいよ実現する。それにしても、どうしてこのタイミングで再びカーズをやる気になったのか。その理由を訊くと、リックはこんな風に説明してくれた。

「何年も経過して、面倒くさいことを色々忘れてしまったんだと思う。曲を書きながら、自分が思っているようにできるようなミュージシャンを探していたら、じゃあ僕の音楽を一番良く知っているカーズでやればいいんじゃないか、って思ったんだ。『過去を水に流してどうなるかやってみよう』、そう思って再開することにした」

「カーズをやらずにいた23年は……コーヒー・ブレイクみたいな期間だったかな(笑)。アルバムをやることに決まり、皆がニューヨークに集まって練習することになったんだけれど、最初に音を出したら、まるで2週間振りに演奏しているような感覚に陥った。時間が少しも経っていないかのようでさ。みんな調子もよくて、とてもスムーズだったよ。唯一の違いは、5人じゃなくって4人で、あれ、ベンは?って感じだけだった。それ以外はすぐに馴染んだし、どこかでそうなるだろうっていうのは予感していたんだよ。昔と全然変わらなかった」

そうやって完成した新作『ムーヴ・ライク・ディス』(2011年)が、ナツメロ的な空気と一線を画し、『パノラマ』の頃の前衛的な空気を湛えたアルバムになったことも、長年のファンとしてはうれしかった。



「このアルバムはトピックがあるというか、他のカーズのアルバムと比較するとそうなるよね。歌詞も今自分の国で起こっていること、メディアに露出して注目を浴びている人のことだとか、そんな内容の曲が多いかな。『ドア・トゥ・ドア』には古い曲もいくつか入っていたけれど、今回は全て新しい曲で、去年書いたものだよ」

リックにソロ作とカーズの作品との差異を訊いてみると、実に面白い答えが返ってきた。

「ソロとザ・カーズのアルバムの間には全く差がないんだ。自分では分けてやるわけではないし、ソロ・アルバムでもザ・カーズのアルバムでも同じだよ。ただ、やはりバンドの他のメンバーにはそれぞれミュージシャンとして演奏スタイルがあるし、自分なりのやり方もあるから、結局あのメンバーで演奏するとザ・カーズ・スタイルになっちゃうんだよね。多分違うミュージシャンとやったら、全然違うものになっていただろう。それについては、やはり他のメンバーは賞賛に値すると思う。何年もかけて確立してきたサウンドなんだよね、これは」



バンドは2011年5月に全米~カナダを回るツアーを敢行。ベンがいない穴をグレッグが主に埋め、かつてベンがヴォーカルを取った曲はリックが歌った。

2018年にはファンの念願が叶い、カーズがロックの殿堂入りを果たした。セレモニーではウィーザーのベーシスト、スコット・シュライナーが加わって4曲を披露。これがバンドとして最後のパフォーマンスだ。



そして2019年9月15日、リックはニューヨークのマンハッタンにある自宅で、亡くなっているところを発見された。心臓病を患っていたそうで、術後の回復途中にあったことが明らかになっている。妻のポーリーナ・ポリツィコヴァが彼を起こしに行った際、息を引き取っていることに気付いたそうで、安らかな最期だったことを願うばかりだ。

彼の死後、ウィーザーをはじめ、どれほど多くのアーティストがリックの死を悼むコメントを出したか、検索してその内容を是非読んでみて欲しい。ミュージシャンの立場を理解し、彼らをサポートする姿勢を保ち続けたリックの心意気を、彼と触れた人々がきっと継承してくれるはず。彼が残した独創的なアートだけでなく、アートを生み出す者としてのマインドも、未来に語り継がれていくことだろう。

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