追悼リック・オケイセック ザ・カーズのフロントマンが残した名曲17選

11.「Jimmy Jimmy」 (1983)

カーズでヒットを連発する一方で、オケイセックは初(にしてベスト)のソロアルバム『Beatitude』では、よりダークでパーソナルな方向性を追求した。「Jimmy Jimmy」には、バッド・ブレインズやスーサイド、Romeo Voidといった彼がプロデュースしたバンドの作品に見られたエクスペリメンタルなエッジが宿っている。カーズの『シェイク・イット・アップ』と『ハートビート・シティ』の間のブランクを埋める形で、彼は1983年に『Beatitude』を発表した。明らかにスーサイドの影響であるエレクトロニックなビートが印象的なこの曲で、オケイセックは「ゴミ出しをさせられる家には帰りたくない」というある少年の心境を歌っている(「君はうつ病か何かかい? 心ここに在らずって感じだ」)。同曲はMTVでやや話題になっただけだったが、オケイセックのソロとしては間違いなくベストの出来だ。R.S.



12.「マジック」(1984年)

400万枚を売り上げたカーズのアルバム『ハートビート・シティ』からの2ndシングル「マジック」は、ラジオ受けを前提に作られたような曲だ。そのサウンドは強烈でありながら、同時にエレガントでもある。大胆な3コードのギターリフとパンチのあるキーボードのラインはリスナーを一瞬で惹きつけ、2本目のギターが遠方で鳴り響き、快活なベースラインは曲をしっかりと支える。オケイセックは短いフレーズを滑舌よくスタッカートで刻み、バックコーラスはアンサンブル全体を優しく包み込む。イングランドで6カ月間かけてレコーディングされた『ハートビート・シティ』には、こういった要素が全編に見られる。「12時間かけて直感的なムードを表現しようとすることは、矛盾しているように思われるかもしれないね」ギタリストのエリオット・イーストンはそう語っている。「でも僕らは徹底的にやることで、イメージ通りの生っぽさを作り出したんだ」 E.L.



13.「ユー・マイト・シンク」(1984年)

ロバート・ジョン・"マット"・ランジ(AC/DCデフ・レパード等)をプロデューサーに迎えて制作されたカーズの1984年作、『ハートビート・シティ』からの1stシングル「ユー・マイト・シンク」で、オケイセックはダークなヴィジョンをポップに昇華させる手腕を再び発揮してみせた。同曲のエクスペリメンタルなミュージックビデオは今もクラシックとして語り継がれており、1984年のVMAではマイケル・ジャクソンの「スリラー」を抑えて年間最優秀ビデオに選ばれた。効果的に用いられたコンピューターアニメーションは当時としては斬新だったが、ミニチュアのオケイセックがモデルのスーザン・ギャラガーが演じる女性を付け回すというシナリオに、バンドは当初難色を示した。Craig MarksとRob Tannenbaumによる著書『I Want My MTV』で、ディレクターのChris Steinはそのアイディアをメンバーに伝えた時のことを次のように語っている。「彼らとのミーティングの場でこう伝えたんだ。『洗面台の棚や石鹸の上で君たちが演奏するんだ。でもってリックは蝿になる』すると誰かがこう言った。『どうせなら便器のウンチの上で演奏するってのはどうだ?』あれには恐れ入ったよ」J.D.



14.「ドライヴ」(1984年)

カーズはギターポップのバンドとして知られているが、アメリカにおける彼らの最大のヒット曲は、シンセがリードするこの切ないバラードだ。オケイセックが作曲し、ベンジャミン・オールがヴォーカルをとった「ドライヴ」は、1984年にHot 100で第3位を記録した。スペーシーで夢見心地なLangeによるプロダクションと、シンセが生み出す浮遊感を刻むかのようなドラムも曲に華を添えている。The Chicago Tribune紙でのインタビューによると、録音したドラムはコンピューターで編集した上で、打ち込みという形で各曲に使われたという。絶妙に曖昧で、リスナーにあれこれと推測させる「ドライヴ」のヒットは、もはや計算通りだったに違いない。「君が倒れた時に迎えに来るのは誰? / 君からの電話を切るのは誰? / 君の夢の話に耳を傾けるのは誰? / 君が叫びだすと耳をふさぐのは誰?」同曲はオケイセックの私生活にも大きな影響を及ぼすこととなった。彼は1989年に、「ドライヴ」のミュージックビデオに出演したモデルのPaulina Porizkovaと結婚している。同曲は様々な形でアレンジされているが、オケイセックは必ずしもその出来には納得していない様子だった。1997年に行われたインタビューで、彼はこう語っている。「ロンドン交響楽団がアレンジしたやつを聴いたけど、思わず顔をしかめたよ」E.L.


Translated by Masaaki Yoshida

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