追悼リック・オケイセック ザ・カーズのフロントマンが残した名曲17選

7.「キャンディー・オーに捧ぐ」(1979年)

「最初はエレキギターを中心とした、ストレートなロックのレコードにするつもりだった。でもアート寄りの方向に、自然とシフトしていったんだ」試行錯誤を重ねたバンドの初期について、キーボード担当のグレッグ・ホークスはそう語っている。「キャンディー・オーに捧ぐ」はその好例と言えるだろう。ニューウェーブらしい無機的なビート、ブルースさえ連想させるストレートな構成、大胆なまでに抽象的な歌詞など、様々なアイディアをわずか2分半に詰め込んだ同曲は、まさにミニマルポップの金字塔だ。ヴォーカルを務めたベンジャミン・オールがキャンディー・オーという名の女性に「I need you so」(元の歌詞は「fortissimo」だった)と訴える一方で、その歌詞には謎めいたキーワードの数々が登場する(紫色のハム 積み上げられたカード / 君が放つレーザーライト / すべては君が何にも縛られないことを示すため)。ホークスによるシンセのアルペジオと、エリオット・イーストンによる金切り声のようなギターの存在感も抜群だ。一筋縄ではいかないこのラヴソングのダークなムードは、1989年発表のメルヴィンズによるカバーでも見事に再現されている。同曲に漂う不穏なトーンについて、オケイセックは遠回しにヒントを与えてくれている。「『O』は『obnoxious(不快な)』の頭文字なんだ」H.S.




8.「危険がいっぱい(原題:Dangerous Type)」(1979年)

4分半の間に4行のフックが10回登場するこの曲で、オケイセックはミニマリズムを徹底的に追求している。ポップスに対する並外れた嗅覚を持つ彼は、その構成についてしばしば疑問を感じていた。「時々思うんだよ、今のシーンはなんてつまらないんだろうって」彼は1980年に本誌にそう語っているが、こう続けてもいる。「僕らは型にはまらないジャムバンドってわけじゃない。正確でタイトであろうとしているけど、それは必ずしも僕らの音楽が枠に収まっているってことじゃない。フォーマットや構成にこだわっているように思われているけど、僕のソングライティングの基本はエモーショナルなものを書くってことなんだ。人々の心に響くソウルミュージックのようなね」E.L.



9.「シェイク・イット・アップ」(1981年)

カーズの1980年作『パノラマ』はやや実験的な内容だったが、翌年に発表された『シェイク・イット・アップ』ではバンドのシグネチャーサウンドに回帰し、タイトル曲はそのことを象徴している。「ポップへの堂々たる回帰さ」当時オケイセックは冗談交じりにそう語っている。キーボードの電子音がリードするシンプルでキャッチーな「シェイク・イット・アップ」は、ダンスパーティーを盛り上げるニューウェーブの名曲だ。「あの曲の歌詞はあんまり気に入ってないんだけどね」オケイセックは後にそう語っている。肩の力が抜けた涼しげな雰囲気からは想像しがたいが、バンドはこの曲を仕上げるのに何年もの歳月を費やしたという。ファンとしては彼らの努力に感謝するばかりだ。「シェイク・イット・アップ」はチャートで最高2位を記録した。 J.D.



10.「アイム・ノット・ザ・ワン」(1981年)

『シェイク・イット・アップ』の中でも地味な印象のこの曲は、シングルカットされなかったにも拘らずファンに愛され、1985年発表の『グレイテスト・ヒッツ』にも収録された。ダークなムードとポップなメロディの融合は、オケイセックが最も得意とするところだ。「僕はずっとそういうものが好きだったんだ、60年代の頃からね」オケイセックはVanity Fair誌のMarc Spitzにそう語っている。「僕はディランの大ファンで、母さんはヴェルヴェット・アンダーグラウンドが大好きだった。僕はいつも左脳を刺激する音楽に惹かれたから、ヴェルヴェッツもカーペンターズも好きだった」この曲「アイム・ノット・ザ・ワン」は、映画『アダム・サンドラーはビリー・マジソン/一日一善』で、サンドラーが校長先生からラブレターを受け取るシーンでも使われている。R.S.



Translated by Masaaki Yoshida

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