フライング・ロータスを変えた音楽学習「クレイジーなものを作るには基礎が必要だ」

フライング・ロータス(Courtesy of BEAT RECORDS)



自分の好奇心を育んであげれば、インスピレーションは無限だと思う

―音楽理論を学んだことで、改めて凄さに気付いた作曲家はいますか?

フライロー:すべての音楽家だね(笑)。音楽理論を勉強したことで、音楽を聴くときに、もっと深いレベルで良さがわかるようになったんだ。シンプルな音楽でも、そこから学ぶものはある。音楽を聴いてると、トリップしてるような、サイケデリックな感覚があるんだ。マトリックスを見透かすことができるというか、その音楽に含まれる暗号を解読することができる。それに、音楽の歴史からずっと何が繰り返されてきたかがわかるようになったし、その繰り返されてきた音楽が、どのようにつながっているかも見えてくる。誰かが、音楽理論を知っていながら、音楽の伝統を皮肉っぽく使ってる時もわかるようになった。以前は気づかなかったことに気づけるようになったんだよ。自分が作品を作るときのパレットの幅が広くなったのは嬉しいことさ。

―具体的な作品はありますか?

フライロー:正直に言って、自分の親族でもあるアリス・コルトレーン、ジョン・コルトレーンの音楽を聴くときの感覚が変わったね。子供の頃から、彼らのレコードをよく聴いていたけど、音楽理論を理解できるようになってから、その凄さがもっと理解できるようになった。年齢を重ねてきて、音楽の知識が増えるにつれ、彼らの作品の素晴らしさが身にしみてわかる。音楽理論がわかると、彼らがいかに天才だったかがわかるんだ。さらに、自分で彼らの音楽を実際に演奏してみることで、彼らの視点や思考がもっと理解できるようになった。そうすることで、さらに一つ上のレベルで彼らの音楽を理解して、素晴らしさが理解できるようになった。

―じゃあ「ジャイアント・ステップス」とか練習してるんですか?

フライロー:そうだね、難しいけどね(笑)。



―『Flamagra』のために音楽理論を勉強し、その前には『KUSO』のために映像制作や映画などを独学で勉強していますよね。ここ数年、積極的に方法や理論を「学ぶ」機会が多かったと思います。あなたにとって「勉強」や「教育」とはどんな意味を持つものでしょう?

フライロー:学び続けて、成長し続けることの重要さに気がついたんだ。大人になってある年齢を超えてくると、怠惰になって、自分の状態をそのまま受け入れてしまいがちだよね。そうなると、新しいことに挑戦しなくなってしまう。俺はそういう風に生きていけない。だから、いつも何か新しいことに挑戦したり、新しいことを学ぶことは、自分にとってのモチベーションにもなるんだ。そうすることで、インスピレーションを得続けることができるからね。自分の才能を磨き続けて、好奇心を育んであげれば、インスピレーションは無限だと思うんだ。あと、常にクリエイティブでいて、学び続けて、新しいことに挑戦し続けると、もっと長生きできると思うんだ。俺が知っている年配の現役アーティストは、クリエイティブであり続けているから健康面での心配もない。人は、脳からクリエイティブなものを生み出すことをやめて、食事や健康を気にしなくなると徐々に衰えていく。だから、自分を大切にすることは大事さ。そうすればベストな人生が送れる。

―音楽制作を独学だけのアプローチをやっているのでは、限界を感じていたんですか?

フライロー:アイデアがなくなっていると感じていたわけじゃない。アイデアは常にあるんだけど、音楽理論を学ぶことで、それを形にするプロセスが早くなったんだ。頭の中にアイデアがあっても、以前はそれが遠くにあって手が届かないと感じていた。頭の中で聞こえるアイデアを形にしようとするときに、指が思うように動かなかったり、どうすればいいかわからないことがあった。家族と夕食を食べてるときに、家族に伝えたいことがあっても、うまくしゃべれなくて、ずっとどもってるような感覚だよ。でも音楽理論を学ぶことで、自分が伝えたかったことが伝えやすくなった。時間がかかっても、最終的に家族に言いたいことは言えるかもしれない。でも、自分をフルに表現するのは難しい。だから音楽理論を学ぶことで、コミュニケーションがもっとスムースになったような感覚だよ。

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―そういえば、あなたのインスタで見ましたが、坂本龍一とレコーディングしたようですね。どうでしたか?

フライロー:素晴らしい経験だったよ。人間的にも素晴らしいし、クリエイティブなスピリットを持った人だ。彼といることで、俺は数日間とても静かな気持ちになれた。美しい経験だったよ。彼と作業していると、針を床に落としても、それが聞こえるような感覚になるんだ。スペシャルな経験だったね。彼とレコーディングした素材を開いて、そろそろ作業しなくちゃ。

―「静かな気持ちになれた」というのは、彼のキーボードの演奏を聴いて、そういう気持ちになったということですか?

フライロー:それもあるし、彼が持っている人間としてのエネルギーの話だよ。とてもリラックスしていて、思慮に富んだ人間だから、彼といると静かな気持ちになれて、人の足跡とか、なんでも敏感に聞き取れるようになるんだ。そういう気持ちにさせてくれる人間は、俺にとって非常に少ない。叔母のアリス(・コルトレーン)といると、そういう気持ちになった。叔母が部屋に入ってくると、みんなは叔母の存在感に圧倒されて静かになって、行儀よく振る舞って、誰もおかしな行動を取らなかったんだよ(笑)。

―坂本龍一との音源は、次のアルバムに収録されるんですか?

フライロー:まだわからないね(笑)。

―「教育」の話に戻りますが、音楽理論を長年学んで“教授”になったとしても、必ずしも素晴らしい音楽を作れるわけではないですよね。それについてはどう思いますか?

フライロー:それはトリッキーな問題だよね。ルールをすべて学んでから、どこかのタイミングでルールをすべて捨てないといけない瞬間がいつかやってくる。同時に、理由があってそのルールが存在しているわけだから、それをまず学ぶことは大切だと思うんだ。基本を押さえるのは悪いことじゃない。クレイジーなものを作るには、基礎がまず必要なんだ。そうじゃないと、すべてがクレイジーなものになっちゃうからね(笑)。だから、バランスが必要なんだ。例えば、モチーフについて学んだ場合、それはすでに数え切れないほどやり尽くされているから、「俺はそこに何か新しいアプローチを提供できるのか?」ということを考えないといけない。でも今まで音楽理論を学んでなかったから、そういうテクスチャーを自分の音楽に取り入れることがなかったし、それが自分にとっては新鮮だったりするんだ。だから、俺にとっては面白いし、実験的に使ってみたくなる。リスナーの期待を覆すことも面白いんだよ。俺がわざとらしいメロディーを演奏していたかと思いきや、その後にクレイジーな世界観になったり、逆にクレイジーなサウンドからスタートして、ポップなサウンドになったり、それをすべて表現できるのは素晴らしいことだよ。新しいことに挑戦するために、最初にメロディを作ってからコード進行を決めることで、選択肢が広がることも分かった。そこからおもしろい展開を生み出すことができるんだよ。やりたいことが自由自在にできるようになるまで、まだまだ時間がかかりそうだ(笑)。

Translated by Hashim Kotaro Bharoocha

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