リアム・ギャラガー『Why Me? Why Not.』を考察「ボーカルの進化が導いた新境地」

リアム・ギャラガー(Courtesy of ワーナーミュージック)



極上すぎる楽曲を丁寧に歌いこなすリアム

そういう意味で、本作は、リアムの声だからこそ成立する曲ばかりが揃っている。それが、吉と出た。例えば、今年6月頭に先行シングル第一弾としてリリースされた「Shockwave」。ギターとブルースハープで60年代ロック風に幕を開けながらも、途中からこの上なくキャッチーなメロディーが展開されて行くわけだが、リアムが歌うとこのドラマティックすぎる展開でさえ、胸に染みる狂おしい曲として成立する。

リアムはアルバムの先行曲としてこの初夏から夏にかけて他に3曲を発表しており、ギターの不穏な歪みとダークな曲調が印象的な「The River」、ギター1本の音が緩やかなバンド・サウンドに繋がって行くスローバラードの「Once」、サビに始まりストリングスとともに高まってゆく「One Of Us」と、曲調はどれも異なっていた。しかしどの曲もおしなべて、意外なほどキャッチーかつドラマティックに曲が展開され、そしてこれも意外すぎることなのだが、曲自体のやり過ぎ感を全く感じさせなくなるほどに、リアムの歌声が丁寧に乗っていた。




そして本作の恐ろしいところは、これらのシングル群で「いい曲」を出し切ったわけではなく、この曲がシングルにならないのか、という極上の曲ばかりで構成されていること。それこそジョン・レノンの「イマジン」と並べて語りたくなる「Meadow」、90年代のグラスゴーから出てきたポップ・チューンかと思うほどに晴れやかな爽快さに満ちたギター・ポップの「Now That I’ve Found You」や「Alright Now」、オアシスの最終作『Dig Out Your Soul』に入っていてもおかしくないほどリズミカルなビートやギター・ソロを持ちつつ、やはりメロディー・ラインはキャッチーに展開して行く「Halo」、ハードなバンド・サウンドでありつつ耳に残るサビが印象的な「Be Still」ーーあげていけば、きりがない。そして、やり過ぎと紙一重の名曲の連打を見事にリアムの声の力が制御して、その結果、しみじみと胸に染み込んでくるアルバムとして仕上がっている。


いったいどのタイミングで、リアムは自分の真骨頂はこの声だと確信し、本作の主軸を自分の声に据えたのだろう。少なくとも本作の制作自体は、昨年4月に始まっている。そして、アルバム完成後と思しき去る8月3日には、イギリス国内で最大級のパイプ・オルガンのある会場で、24人編成のオーケストラとともに『MTVアンプラグド』の収録を果たしている。この原稿を書いている時点ではまだ未放映だが、本作のドラマティックな旋律を見事に乗りこなし感動へと転化しているリアムの声を聞くかぎりでも、放映日が待ち遠しくなる。『MTV アンプラグド』といえば、1996年のオアシス収録の際にはリアムが喉の痛みを訴えたため急遽ノエルが歌った伝説のプログラムだが(そして観客席でリアムが楽しげにしていた様も懐かしい)、あれから23年。思えば、『Definitely Maybe』や『Morning Glory』の名曲たちも、無意識のままながら、出来過ぎなくらいの曲を乗りこなし感動に転化させていたリアムの声があればこそ。そして本作もまた、ソロになり自らの魅力をその歌声だとはっきりと意識した中で、目の前にある名メロディーにただひたすら、夢中で、命を吹き込もうとしたリアムだからこそ生み出せた1枚となった。

あの声は野生の賜物だからこそいい、とオアシスを聴いていたあの頃は信じていた。しかし、リアムのシンガーとしての進化が最も映える場所が、こういうところにあったのかと驚いている。若い頃の方が良かったと言わせないこの声は、シンガーとしての自覚と覚悟が導いたものなのかもしれない。これからも歌い続けて行く、という覚悟が。




リアム・ギャラガー

『Why Me? Why Not.』
発売日:2019年9月20日(金)
WPCR-18253
2,300円(税抜価格)
日本盤14曲収録予定
日本盤初回生産封入特典:スペシャル・ステッカーシート

CD購入/ダウンロード/ストリーミング:
https://LiamGallagherJP.lnk.to/WMWNDPu

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