上原ひろみが明かす、比類なきピアニストの演奏論「めざしたのは音色の豊かさ」

ピアノの細部に宿る音を大事にしたかった

―作曲と演奏と練習が不可分な感じが面白いですね。今回みたいに一人だと、自分だけ頑張ればいいのである意味で気楽なんですかね。トリオだと他のメンバーにやらせなきゃいけないんで気を遣うじゃないですか? 


上原:私は気を遣わないんですよ(笑)。サイモン(・フィリップス)とアンソニー(・ジャクソン)もそうですし、エドマール(・カスタネーダ)と共演するときもそう。気を遣ったほうがよかったかもしれない(笑)。サイモンが「自分がやったことがないことを要求されることはなかなかないから、そういうことはワクワクするんだ」と言ってくれていたので、大丈夫だとは思いますけど(笑)。でも、「簡単に言うねえ……」とは言われましたね。

―そうでしょうね(笑)。

上原:このメロディをこっちで叩きながら、それでリズムも刻んでほしいとかお願いすると、「簡単に言うねえ……」って(笑)。


Photo by Kana Tarumi

―他に今までできなかったけど、今回のレコーディングで出来るようになったことってありますか?

上原:「セピア・エフェクト」はとてもチャレンジングでしたね。これも最初に伴奏の部分がアルペジオみたいになったらいいなと思って、その上にメロディを鼻歌みたいに弾きながら書いたんです。でも、曲が出来上がってから「指が足りない」と気付いて。

―なるほど(笑)。

上原:アルペジオを弾きながらメロディを弾くってことをやるためには、そもそも指が足りないなと。自分のなかではどちらかといえば訥々と静かに流れていくような曲にしたかったんですよ。でも、指が足りなかったので、メロディはほぼ小指と薬指だけで弾いているんですね。普段はメロディって親指と人差し指、中指で弾くことが多いですから、小指と薬指の二本だけでメロディを弾くことはなかなかなくて。その二本の指で静かに流れるようなメロディをきれいに紡ぎ続ける……「またやっちゃったか」って、これも曲ができた時に思いました(笑)。

―しかも、「セピア・エフェクト」は今回のアルバム中でも最も変わった音色で弾いている曲ですよね。

上原:はい、靄(もや)の中にあるような音色ですよね。

―その音色を操りつつ、小指と薬指だけを使ってメロディーを弾かなきゃいけないわけですよね?

上原:そこはすごく難しかったです。

―こういう音色を出すためには、どういうふうに鍵盤を押すんですか?

上原:近くから打鍵して長めに弾く。すぐに離さないっていうか。それを小指と薬指だけをメインにやるのがかなり難しくて。この曲に求めているイメージは、輪郭のそんなにはっきりしない靄(もや)がかかっているような音だったんですね。だけど、それははっきり弾かないというのとは違うんです。きちんと打鍵することはするんですよ。打鍵しながらも柔らかい音を出すっていうことを、メロディを弾くのにそんなに使われることのない指でやるのが難しかったですね。

―このアルバムはビビットな色調と言うよりは、グラデーションのように色合いが変わっていく様子とか、繊細な色彩の変化が聴こえるんですけど、その色彩をバンドやアンサンブルじゃなくて、たった一台のピアノから引き出しているのが面白いと思いました。

上原:ピアノという楽器はすごく繊細なんです。弾き方でその弦の鳴りとか揺れが変わって、ちょっとの力の加減でほんとに違う音が出るし、違う色になる。ソロピアノをやるんだったら、ピアノの可能性とか魅力をぎゅっと詰め込みたいという思いがありました。バンドだと(実際には鳴っていたけど)聴こえないところってたくさんあると思うんですよね。でも、ソロピアノだと倍音までも全部録音されるじゃないですか。ペダルを踏んで離した音まで聴こえる。だからこそ、私はこのアルバムで、ピアノの細部に宿る音を大事にしたかったんです。


Photo by Kana Tarumi



〈リリース情報〉


上原ひろみ

『Spectrum』
2019年9月18日 日本先行3形態同時リリース

SHM-CD 2枚組(初回限定盤)
価格:3,300+税
SHM-CD (通常盤)
価格:2,600+税
SA-CD ~SHM仕様~(高音質盤)
価格:4,000+税

◎収録曲
1. カレイドスコープ
2. ホワイトアウト
3. イエロー・ワーリッツァー・ブルース
4. スペクトラム
5. ブラックバード
6. ミスター・C.C.
7. ワンス・イン・ア・ブルー・ムーン
8. ラプソディ・イン・ヴァリアス・シェイズ・オブ・ブルー
9. セピア・エフェクト

◎ボーナスCD (初回限定盤のみ)
1. BQE
2. シシリアン・ブルー
3. シュー・ア・ラ・クレーム
4. パッヘルベルのカノン ビバ! ベガス
5. ショー・シティ・ショー・ガール
6. デイタイム・イン・ラスベガス
7. ザ・ギャンブラー
8. プレイス・トゥ・ビー
※2010年8月20日、21日、ブルーノート・ニューヨークにてライヴ録音

〈ツアー情報〉

上原ひろみ JAPAN TOUR 2019 "SPECTRUM"
2019年11月17日(日)東京都 サントリーホール
2019年11月19日(火)広島県 広島国際会議場 フェニックスホール
2019年11月21日(木)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
2019年11月23日(土・祝)茨城県 水戸芸術館
2019年11月24日(日)大阪府 ザ・シンフォニーホール
2019年11月26日(火)石川県 金沢市文化ホール
2019年11月27日(水)長野県 長野市芸術館
2019年11月29日(金)三重県 四日市市文化会館 第1ホール
2019年11月30日(土)静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール
2019年12月1日(日)大阪府 ザ・シンフォニーホール
2019年12月3日(火)愛知県 愛知県芸術劇場
2019年12月6日(金)香川県 サンポートホール高松 大ホール
2019年12月7日(土)岡山県 岡山市民会館
2019年12月8日(日)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
2019年12月10日(火)新潟県 新潟県民会館
2019年12月11日(水)宮城県 日立システムズホール仙台
2019年12月13日(金)東京都 サントリーホール
2019年12月14日(土)東京都 すみだトリフォニーホール
2019年12月15日(日)神奈川県 横浜みなとみらいホール
2019年12月17日(火)福岡県 福岡シンフォニーホール
2019年12月18日(水)大分県 別府国際コンベンションセンター ビーコンプラザ フィルハーモニアホール
2019年12月19日(木)山口県 山口市民会館 大ホール

公式サイト:
http://www.hiromiuehara.com/

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE