Suchmos横浜スタジアム公演 4年間の進化を凝縮した「ベスト・オブ・ベスト」

後半は雰囲気を変えて、再びファンキー・モードに戻り、「MINT」からスタート。「孤独な夜があってもいい/何も無くても/笑えていればいい」と歌うこの曲の終盤で、感極まったようにYONCEは「歩き疲れてもまだまだ行こう、歌えよBaby!」と客席を煽る。冷静に考えてみると、YONCEの歌詞は孤独や疎外感と向き合う曲が少なくない。愛すべき仲間に囲まれて過ごしているのに、どうにもぬぐえないブルースにつきまとわれている。

続く「TOBACCO」の冒頭、YONCEが即興のトーキングブルースを唸り出す。

「そうさ、俺たちはニコチンフリーク/世知辛いね/さびしいね/どこでも喫えるわけじゃないのよ/だけど…キース・リチャーズはスタジアムの通路とかで喫ってた」

この曲と次の「WHY」でフィーチャーされるTAIHEIのジャジーなエレピは絶品。そのまま流れをキープして「BODY」へとつなぎ、次曲のために一旦短いブレイクが入る。


Photo by Shun Komiyama


Photo by Shun Komiyama

ここからは長尺曲が2つ続く。「Hit Me, Thunder」が始まるのとまったく同時に、またしても曲に誘われるように雨が強くなってきた。イントロのジャムでビートルズ「アイ・ウォント・ユー」のフレーズを一瞬聞かせ、ヘヴィなムードの中で曲は進行。スクリーンに雷が映し出され、そのまま本当に雷雨になるのか?と危惧したが、幸いそこまで荒天にはならなかった。しかし雨は引っ切りなしに降り続いており、嵐が接近しているのを確かに感じる。スマホに目をやると、身内から「22時に東横線全線運休、小田急も」とメッセージが入っていた。もうここまで来たらなるようになれだ。

続く「Pacific Blues」の冒頭でYONCEが「横浜に雷が落ちて、それからどうしたって?」と縁起でもないことを歌うので、思わず笑ってしまった。スクリーンにはオフステージのメンバーを撮った映像が。場面が次第に燃える夕陽へと移るにつれ、TAIKINGのギター・ソロもエモーションの頂点へと向かって行く。映像の演出とバンドの表現力がぴったり合致、後半のハイライトは間違いなくこの曲だった。


Photo by Kayo Sekiguchi


Photo by Shun Komiyama

「がっつりやってやったぜ横浜スタジアム! ラストスパート、一緒に行こう」というYONCEの号令に続いて、ファンファーレを思わせるギターに先導され「A.G.I.T.」がスタート。ここでギアチェンジしたバンドは「Burn」「808」と続けて場内の熱気をグッと高める。YONCEが「めちゃくちゃになろう!」と呼びかけて始まった「GAGA」でも、「茅ヶ崎から5分で」を「横浜から5分で」に変えて歌う念の入りようだ。

本編のラストは「VOLT-AGE」で全力疾走。スタジアムのLEDヴィジョンを駆使して徹底的に盛り上げる。この日、映像演出を一手に手掛けていたのは、yahyelの一員でもある山田健人。ロケーションや時間帯を念頭に入れた抜群の演出で、ライブのクライマックスをバンドと共に作り出していた。

そして、アンコールに答えて披露されたのは「Life Easy」。TAIHEIの柔和に包み込むようなピアノ独奏に続き、ゆったりとしたテンポで進むこの曲は、YONCEのヴォーカルがドラマティックな絶唱へと達し、激動の一日を見事に締め括った。


Photo by Yosuke Torii


Photo by Yosuke Torii

この日のセットリストを見渡すと、デビューEP『Essence』(2015年4月)と1stアルバム『THE BAY』(2015年7月)から6曲、「STAY TUNE」を含むEP『LOVE & VICE』(2016年1月)〜『THE KIDS』までから6曲、そしてEP『FIRST CHOICE LAST STANCE』(2017年7月)と『THE ASHTRAY』(2018年6月)から4曲、という配分。最新作『THE ANYMAL』からは3曲(+シングルに収められた「Pacific Blues」)と、意外に少ない。ここに新曲「藍情」を加えた計21曲、実に2時間40分を超える圧倒的なパフォーマンスは、2枚組のベスト盤を一気に聴き通したのとほぼ同じヴォリュームだ。まさにベスト・オブ・ベスト、ここまでの全てをギュッと詰め込んだ感じの内容で、デビューからわずか4年の間に驚くべき速度で進化を遂げたバンドの多面性を、これでもかと見せつけてくれた。

前述したJ-WAVE「SPARK」で、メンバーはセットリストの選曲についても明かした。実は『THE ANYMAL』から11分超の大曲「Indigo Blues」を披露することも検討していたという。同作からは他にも「You Blue I」「ROMA」が最初の候補リストに入っていた。他にも「ONE DAY IN AVENUE」や「Get Lady」「Fallin’」などが候補に挙がっていたそうだが、そこから削ぎ落としていった結果が当日の21曲だったわけだ。

公演当日は「ここまで集大成的な内容のライブをやる意図は? 今後の活動はどうなるんだろう」とも思ったが、「SPARK」に出演したメンバーの発言を聞く限り、バンドはこれからの活動についても引き続き意欲的で、余計な心配をする必要はまったくなさそうだ。

それにしても、他に類を見ない、不思議な幅広さを持つバンドだ。従来のダンサブルな曲と、最近の長尺かつヘヴィなロック・チューンとの間にギャップがあるのは確かで、「STAY TUNE」と「藍情」を演奏しているのが同じバンドとはとても思えないが。どちらも当たり前に演奏できてしまう双頭のモンスターがSuchmosである、とも言える。初期からのレパートリーを一旦全タイプ並べ、今のバンドに紐付け直していくという意味でも、やる意義のあるライブだった。

単に地元でノスタルジーに浸るのではなく、未来へ歩みを進めるための総決算。近い将来、2019年9月8日の横浜スタジアムを振り返ったときに、この特別なライブに立ち会えたことを誇りに思う日がきっと来るはずだ。彼らの旅はまだまだ終わらない。


Photo by Shun Komiyama


Photo by Yosuke Torii



〈セットリスト〉
01. YMM
02. WIPER
03. Alright
04. DUMBO
05. Miree
06. STAY TUNE
07. In The Zoo
08. 藍情
09. OVERSTAND
10. MINT
11. TOBACCO
12. WHY
13. BODY
14. Hit Me, Thunder
15. Pacific Blues
16. A.G.I.T.
17. Burn
18. 808
19. GAGA
20. VOLT-AGE
アンコール
21. Life Easy



『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』
配信日:2020年1月15日(水)
形態:ダウンロード & ストリーミング
https://fcls.lnk.to/live_album

<収録曲>
01. YMM
02. STAY TUNE
03. In The Zoo
04. MINT
05. TOBACCO
06. Hit Me, Thunder
07. Pacific Blues
08. VOLT-AGE
09. Life Easy


Suchmos The Blow Your Mind TOUR 2020

2020年3月9日(月)神奈川県 KT Zepp Yokohama
出演:Suchmos / 松任谷由実

2020年3月10日(火)神奈川県 KT Zepp Yokohama
出演:Suchmos / 松任谷由実

2020年3月17日(火)新潟県 NIIGATA LOTS
出演:Suchmos / 浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS

2020年3月18日(水)新潟県 NIIGATA LOTS
出演:Suchmos / 浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS

2020年3月23日(月)福岡県 Zepp Fukuoka
出演:Suchmos / The Birthday

2020年3月24日(火)福岡県 Zepp Fukuoka
出演:Suchmos / The Birthday

2020年3月26日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
出演:Suchmos / ペトロールズ

2020年3月27日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
出演:Suchmos / ペトロールズ

2020年4月2日(木)北海道 Zepp Sapporo
出演:Suchmos / cero

2020年4月3日(金)北海道 Zepp Sapporo
出演:Suchmos / cero

2020年4月9日(木)宮城県 SENDAI GIGS
出演:Suchmos / and more

2020年4月10日(金)宮城県 SENDAI GIGS
出演:Suchmos / and more

2020年4月13日(月)愛知県 Zepp Nagoya
出演:Suchmos / GRAPEVINE

2020年4月14日(火)愛知県 Zepp Nagoya
出演:Suchmos / GRAPEVINE

2020年4月16日(木)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
出演:Suchmos / GLIM SPANKY

2020年4月17日(金)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
出演:Suchmos / GLIM SPANKY

2020年4月20日(月)東京都 Zepp Tokyo
出演:Suchmos / and more

2020年4月21日(火)東京都 Zepp Tokyo
出演:Suchmos / and more

https://www.suchmos.com/

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE